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FRBは利下げできるのか?(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2024/4/17 16:00 最終更新日 2024/4/17 17:31 米金利 米経済 フィデリティ 利下げ 日銀 FRB

米国景気の堅調さを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測が後退しつつあります。「FRBが利下げできるのか」について、いくつかの想定問答に答えてみました。

3月分雇用統計

【質問①】米国の景気は強く、インフレ圧力も残っているようだが、FRBの利下げはあるのか?

筆者は引き続き、FRBによる金融緩和は近く、利下げは(たとえば)年内に3回程度、実施される可能性があると考えています。

そのおもな背景は、以前にも述べたとおり、①米国は4つの債務(政府、中銀、市中銀行、非金融・民間部門)について問題を抱えており、②歴史は中央銀行が債務者を(金融緩和とそれにつづくインフレによって)救済することを示唆するためです。

【質問②】FRBはどんな理由で利下げを正当化するのか?

もちろん、FRBは「債務者を救うために金融緩和を行う」とは言えません。これを言えるのはいつも決まって「金融危機が生じてから」です。日本の住専問題や米国のTARP(不良債権救済プログラム)に対する有権者の反応と同様に、有権者は、自身も痛みを感じるまで、債務者の救済を許容しません。

そのかわり、FRBは「インフレ率の鈍化で高まった実質政策金利を引き下げるため」と主張するでしょう。インフレが鈍化した分の「調整利下げ」です。

たとえば、コアPCEインフレ率は、FRBが利上げを「5.25-5.5%」(→以下「5.3%」)で打ち止めた昨年7月の「4.2%」から、直近2月には「2.8%」まで低下しています。

その時点から考えても、「実質政策金利」は、昨年7月時点では「1.1%(=5.3-4.2)」であったものが、直近では「2.5%(=5.3-2.8)」まで上昇しています。

米国の実質政策金利とFRBが考える長期の実質政策金利

すなわち、昨年8月以降、いっさいの利上げを実施していなくても、インフレ率の鈍化によって自然に引き締めの強度が高まっている状態です。

直近3月のFOMC四半期見通しによれば、FRBが「経済に対して長期に中立」と考える「実質政策金利」の水準は、「0.6%(=2.6-2.0)」ですから、FRBの「中立金利」に関する見立てが正しいと仮定すれば、直近の「2.5%」は引き締め的ですし、引き締めの程度は強まっています。

このように、インフレの鈍化で自然に高まった実質政策金利を引き下げるのが、利下げの理屈付けと考えられます。

世界の金融政策のトレンドは、すでに「利下げ」

【質問①の利下げの有無】について加えて言えば、すでに世界の金融政策のトレンドは「利下げ方向」です。

新興国を含む中央銀行の政策変更に関するデータをみますと、世界の中央銀行は2024年に入って「都合13回の利上げ、39回の利下げを実施」しています。ちなみに同じデータにしたがうと、2023年は「都合160回の利上げ、84回の利下げ」、2022年は「都合367回の利上げ、17回の利下げ」でした。

世界の中央銀行の金融政策スタンス

世界のトレンドはもはや「利下げ」であることは明らかです。

まさに日銀が利上げを決定した同じ週に、スイス中銀が先進国で初めて利下げに転じています。

また、スウェーデン中銀も、3月会合の声明で、インフレ率が見通しどおり鈍化すれば、5-6月に利下げするとしています。

あくまでパターンではありますが、過去をみると、①スイス中銀の利下げはECBの利下げに先行しますし、②日銀が利上げを始めるとまもなく米国は利下げに転じています。

主要国の政策金利

日米欧の実質政策金利

他国の利下げは、(追い込まれた)米国に利下げの余地を与える。

米国にとっての目下の問題は、「ドルや米国債への信用を保つために高金利を維持すると、4つの債務に関する問題が深刻化してしまう。他方で、4つの債務の問題を和らげるために低金利にすると、インフレ懸念からドルや米国債に対する信用が失われる恐れがある」というものです。まさに抜き差しならない状況です。

ところが、他国が利下げを始めれば、現下のようにそれはドル高圧力として表面化しますし、それは米国にとってみると、ドルの価値を維持しつつ、利下げの余地が生じることを意味します。まさに、願ったりかなったりの状況です(→他方で、ゴールドやビットコイン、株式などが買われていることも大事な点です。インフレも起きています。すなわち、ドルが強いのは、他の不換紙幣に対してだけです)。

米ドル・円平均為替レート

ちょうど1980年代の後半に、米国がドルの下落に拍車がかかるのを防ぎつつ、金融緩和を実行するために日本やドイツに圧力をかけて利下げを実行させたことを思い出しました(→そして、この協調が崩れ、日本やドイツが引き締めに転じようとしたことが『ブラック・マンデー』というトリプル安のきっかけとされています)。

うまくすれば「当時といまが似ている」という論を展開できそうですが、いずれにせよ、ドル高と低金利の2つこそ(プラス、原油のドル建て決済の3つこそ)が米国にとっては必要です。

【質問③】とはいえ、年内の利下げが見送られれば、どうなるのか?

たしかに、利下げが見送られることになれば、金融市場はいくぶん調整するでしょう。なぜなら、FRBは金融市場に対して3回の利下げを「提示」し、マーケットはそれを「約束」と受け止め、資産価格に織り込んでいるためです。

FRBの政策金利と今後の見通し

実際、最近の経済指標の堅調さやFRB幹部による「早期の利下げ観測をけん制する」ような発言を受け、株価は鈍く推移しています。

他方で、金融緩和が減らされる背景は、米国景気の堅調さにほかなりません。

「金融緩和への期待がなくなる」ということは、「好景気への期待が生まれる」ということであり、株式市場は「金融緩和のかわりに得られる好景気を好感する」でしょう(→そして、その際には、株高のもうひとつのドライバーである半導体企業の業績やバリュエーションを気にする必要があるでしょう)。

【質問④】FRBが実際に利下げに転じるなら、どうすれば?

米国の利下げは、世界の金利にも下押し圧力をかけます。その可能性に備えて、ポートフォリオでは、たとえば、世界の債券やリートにも分散投資をすることが考えられます。

米国リート指数と米国10年国債利回り

また、本格的な利下げになれば、ゴールドに妙味が出る可能性があるでしょう。


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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