トランプ前米大統領が5月30日、不倫口止め料の不正処理をめぐる34の罪状すべてで有罪評決を受けた。歴史的な日の翌日。31日の米株式市場で、SNS(交流サイト)「トゥルース・ソーシャル」を運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)の株価は5.3%下落した。株式市場全体への影響はなかった。ダウ工業株30種平均は574ドル上昇。4月末と比べ2.3%高で取引を終えた。「Sell in May(5月に売れ)」の格言に反した形。月間ベースでS&P500種株価指数は4.8%上昇。ナスダック総合株価指数の月間上昇率は6.9%高。CNBCは、強い決算を発表した米半導体大手エヌビディアが5月の株高に大きく寄与したと解説した。
エヌビディアは5月に急上昇した一方、同じく「マグニフィセント7」銘柄のテスラは月間ベースで2.8%下落。年初からの下落率は28%を超えた。投資家にとって銘柄選びは簡単ではない。リターンを高めるため、有力者の投資を参考にする。個人投資家が、情報を豊富に持つ連邦議会の議員の株式投資を簡単に完全コピーする手段がある。
ワシントン・ポスト紙は週末、「株式投資で議員に勝てない投資家がコピー」と題した記事をトップ級で報じた。連邦議会議員は極秘情報や未採択の法案にアクセスでき、規制当局、企業経営者、世界の指導者と個別に面談する機会があり、情報を多く持っていると指摘。議員と家族のポートフォリオを真似て投資する動きが活発だと伝えた。有力議員の株投資情報を分析するアプリ「オートパイロット」のほか、上下両院議員の株式ポートフォリオに連動したETF(上場投資信託)も話題を集めた。
個人投資家向け取引プラットフォーム運営のアンユージュアル・ホエールズは昨年2月、民主党議員の株式投資に連動したティッカーシンボル「NANC」のETFと、共和党議員に連動の「KRUZ」の2本を導入した。議員による株取引は物議を醸しているものの、違法ではない。議員本人と家族の1000ドル(約15万7000円)を超す証券取引全ては45日以内の開示が義務付けられている。開示情報をもとに株式を入れ替える2本のETFは5月末時点で、いずれも年初水準より高い水準で推移。特に「NANC」のパフォーマンスは強い。ポートフォリオで比重が最も大きいのはエヌビディア。マイクロソフト、アップル、アルファベット、アマゾン・ドット・コムが続く。
「NANC」は、ナンシー・ペロシ元下院議長の名前が使われた。元議長の夫、ポール・ペロシ氏は、サンフランシスコ拠点の投資・コンサルティング会社のオーナーだ。FOXビジネスは、ペロシ夫妻がエヌビディア株投資により半年で400万ドル(約6億2800万円)を稼いだと報じた。アプリ「オートパイロット」のジョセフス共同創業者は「クラウドストライクとアルファベットの株式投資でも大きい利益が出ている」とコメントしたと伝えた。
11月5日。大統領選に加え、下院の全議席と上院議席の3分の1を改選する選挙が実施される。有力政治紙ザ・ヒルの予測によると、大統領選でトランプ氏がバイデン氏を破り勝利する確率は、2日時点で56%。共和党が上院を奪回する確率は77%。下院は共和党が62%の確率で過半数議席を維持する可能性を示唆。下院は接戦との分析もあり、予断を許さない。政治の季節。株式市場にどう影響するか注目したい。選挙後に新たな投資商品が登場するかもしれない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。