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「五公五民」じゃ豊かになれぬ 経済復活のカギは減税(木村貴の経済の法則!)

記事公開日 2024/6/14 11:33 最終更新日 2024/6/17 09:25 社会保障 減税 木村貴 増税 税金 木村貴の経済の法則!

【QUICK解説委員長 木村貴】今年の「子供の日」は7月5日――。いきなり奇妙に思ったことだろう。国民の祝日の「こどもの日」は5月5日で、ゴールデンウイーク中にもう終わったはずだ。当日、子供と楽しく過ごした人もいるだろう。けれども子供たちが将来も笑顔でいられるためには、大人はもう一つの「子供の日」とその意味を知っておいたほうがいい。

子供の日は7月5日?

「子供の日」は、政策研究を専門とする吉田寛・千葉商科大学大学院教授が運営するプロジェクト「自由経済研究所」が毎年、「納税者の日」とともに算定しているものだ。いずれも財務省が2月に発表する、国民負担率のデータに基づく。

国民負担率とは、国民全体の所得に占める税金と社会保険料の負担の割合を指す。将来世代が負担する財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」とともに発表されている。2024年度は国民負担率が45.1%、潜在的国民負担率が50.9%となる見通しだ。税金と社会保険料の合計で所得の半分近く、財政赤字を加えると半分強を政府に払わなければならないことを意味する。

「納税者の日」と「子供の日」は、国民負担率と潜在的国民負担率をそれぞれ1年間(暦年ベース)に占める日数に換算し、「税金と社会保険料を払うために、元旦からいつまで働かなければならないか」を示す。今年度の「納税者の日」は、きょう6月14日だ。

「納税者の日」のイラスト

納税者の日」のイラスト

今回新たに作成した「納税者の日」のPRイラストには、政府を皮肉るこんな言葉が添えてある。「平素より国民の皆様には、国税・地方税・社会保険費をご負担いただきありがとうございます。ことしは元旦から6月14日まで働いていただきます」

一方、「子供の日」のイラストにはこうある。「子供にツケをまわさないために、今年は元旦から7月5日まで働いて、今年度政府が使うお金を全額負担していただきます」

「子供にツケをまわさない」とは、自由経済研究所の登録商標。「税を払ってよい」という意思表示をする機会のない将来世代に税のツケを回さないようにしようという呼びかけだ。そのためには、現役世代は現在の税金を負担するだけでなく、将来世代が負担する財政赤字分も払わなければならないことになる。

「納税者の日」は50年前は4月14日だったが、40年前は5月4日、30年前は5月8日、20年前は5月6日、10年前は6月4日となり、税金と社会保険料のために働く日数がじりじりと長くなってきた。「子供の日」も同様だ。

50年前の1974年度の国民負担率は28.3%だった。吉田教授は「政府に奪われる割合が高いほど、自由な経済活動で得た人々の効用(満足感)は失われる。最大でも25%に引き下げる必要がある」と訴える。

奪われる経済活力

ほぼ半分にも達する国民負担率は、江戸時代の年貢率の「五公五民」と変わらないという怒りの声が、ネット上などで目立つようになってきた。五公五民とは、5割が領主の取り分、残りの5割が農民の取り分ということだ。

国民負担率の推移

財務省資料より作成)

これに対し「現在の国民負担は医療、失業、年金、介護といった給付の財源になっている。年貢を取り立てられるだけの江戸時代とは違う」という反論がある。たしかに、国民負担のうち社会保険料は、これら社会保障に充てられている。しかし、単に給付があるというだけでは意味がない。問題は給付の中身が負担に見合ったものかどうかだ。福祉の実態はどうかといえば、過剰な医療や医薬品処方など無駄があふれる一方で、高齢者施設の不足など貧弱なサービスに国民は不満を抱いている。

税金の使い方も同じだ。少し運転を誤っただけで車が歩行者に突っ込む危険な道路。防衛に必要なのか疑問な高額兵器の購入と役に立つのか不明な住民避難訓練。いじめや学力低下が続く学校。さっぱり効果のみえない少子化対策。民間企業なら利用者からそっぽを向かれてもおかしくない、お粗末なサービス内容だ。

それでも政府は利用者から愛想をつかされず、サービスの対価として税金や社会保険料を受け取り続ける。それどころか、保険料引き上げや増税の形で値上げすることもできる。それは各種の公共サービスが政府の独占事業や規制事業であり、民間企業と違って、利用者が満足していなくても料金を強制徴収できるからだ。

「日本の国民負担率は欧州諸国などに比べて低い」という指摘もある。それは事実かもしれないが、一方で欧州諸国の多くは、国民負担率が30%台の米国に比べ、経済活力に乏しい。日本が「五公五民」を欧州並みの「六公四民」「七公三民」に引き上げていけば、活力はさらに衰え、公共サービスを支える税金や保険料を満足に得られず、さらに徴収を強化する悪循環に陥るだろう。

社会保障や公共サービスは、活力ある経済があってはじめて成り立つ。政府部門が民間経済を食いつぶしていけば、やがて共倒れになるしかない。

地方から減税機運を

この状況に危機感を抱き、負担増に歯止めをかけるよう政治に行動を促す運動も起こっている。その草分けは、1997年の設立以来、活動を続ける「日本税制改革協議会(JTR)」だ。

内山優会長は前出の吉田教授と連携し、政治家やその候補者に向けて、「いかなる増税にも反対する」「子供にツケをまわさない」などと記した「納税者保護誓約書」への署名を呼びかける。

米国の全米税制改革協議会(ATR)が展開する同様のキャンペーンにならったものだ。ATR代表のグローバー・ノーキスト氏は米共和党の有力ロビイストで、1990年代に同党を議会で多数党に押し上げた。

JTRの誓約書には、これまでに自治体の首長、地方議員、国会議員とその候補者ら約700人に及ぶ政治家やその志望者が署名してきた。多くは地方の首長・議員とその候補者だ。ノーキスト氏に米国での草の根運動の手法を学んだ内山氏は、「政治は地方からしか変わらない」と話す。

地方とはいえ政治を動かすのは容易ではないが、候補者との勉強会など地道な活動を重ね、手ごたえを感じてもいる。最近では、誓約書署名人の一人である鈴木康友氏が静岡県知事選で初当選を果たした。

ただし誓約書に強制力はないから、当選した首長や議員が実際に「いかなる増税にも反対する」という約束を守るとは限らない。それでも議論のきっかけにはなりうる。納税者保護誓約書に署名したある市長が国民健康保険税の引き上げを提案したところ、議会で「誓約違反ではないか」と批判された。これを機に、市長は市民と直接対話する場を設け、「子供にツケを回さないために国保税の引き上げが必要」と説明。最後には引き上げを決定した。

結果をみれば、「いかなる増税にも反対する」という文言には反するだろう。それでも内山氏はオープンな議論につながったことを評価し、「それを踏まえて選挙で判断するのは有権者」と話す。

「五公五民」のままでは日本経済は豊かにならないし、福祉や公共サービスを支えることもできなくなる。復活のカギは減税だ。それも今回政府が実施するような1回限りの小規模なものではなく、大幅な恒久減税でなければ経済活性化の効果は薄い。減税の機運が地方から中央にも広がれば、経済回復への期待感が強まり、日本株や日本円の魅力も高まるはずだ。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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首長さんと住民が行政費用に負担について率直に対話することは素晴らしいと思います。対話によって最適解が担保されると思うほど楽観的ではありません。が、こうした努力を続けていただくことにより少しでもマシな行政が実現できることを期待したいです。

118/500
 

2024/6/14 13:57

1コメント
木村貴
そうですね。地方行政の具体的な話はとても細かくて、じれったい気もしますが、この積み重ねで有権者の意識を変えることが大切なのでしょう。

2024/6/14 16:00

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