トランプ前米大統領を標的にした暗殺未遂事件に全米が震撼した。米メディアの映像、写真、情報から、トランプ氏は奇跡的に命拾いしたことがわかる。ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ氏の顔方向に向かう銃弾の軌跡が写った画像を掲載。右に顔を動かしていなければ後頭部を撃たれていた可能性が高い。被弾した集会参加者を診た救命救急医師は、「脳が飛び出していた」とCBSニュースに語った。「狙撃から生還した」との視点の報道が目立った。AP通信のカメラマン、ブッチ氏が撮ったトランプ氏の写真は歴史に残る1枚になりそうだ。
バイデン大統領は選挙活動と広告を少なくとも15日まで見送り、民主党はトランプ氏批判を当面自粛、「トランプ氏は民主主義の敵」とする表現は修正される見通し。実業家マスク氏はトランプ氏支持を宣言。アップルのクック最高経営責任者(CEO)はXへの投稿でトランプ氏を見舞った。CNBCによると、JPモルガン・チェースのダイモンCEOとゴールドマン・サックスのソロモンCEOは、それぞれ政治的暴力を嘆くメッセージを発した。暗殺未遂事件は異例とされる2024年米大統領選をさらに揺さぶることになった。
トランプ氏が11月の大統領選で勝利する確率は上がった。賭けサイトPolymarketが示唆するトランプ氏勝利の確率は15日時点で71%。バイデン氏の17%を大きくリードした。賭けサイトPredictIt(プレディクトイット)のオッズもトランプ氏の圧勝を示している。ロイター通信は、トランプ氏勝利を見込んだ取引が今後増えると投資家がみていると報じた。レーガン大統領(当時)は1981年の銃撃事件後に支持率を22ポイント伸ばしたとするバンテージ・ポイント・アセット・マネジメントの最高投資責任者のコメントを引用した。
トランプ氏が復権すれば、関税率は引き上げられ、気候変動の規制とルールは緩和される見通し。法人税と個人所得税の減税は延長、財政赤字は拡大する可能性が指摘されている。厳格な移民政策で労働者不足は深刻化、インフレ上昇を招くとの見方も多い。2026年に任期が切れる米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の再任はないとトランプ氏は2月に述べている。
15日の金融市場でトランプ関連銘柄の取引が活発化。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「トランプ・トレード」が復活したと報じた。最も顕著だったのは暗号資産(仮想通貨)。ビットコインは一時10%超上昇。フィナンシャル・タイムズ紙は、バイデン氏より暗号資産に好意的とされるトランプ氏の勝利を見込んだ買いでビットコインは急騰したと報じた。トランプ氏は25~27日開催のイベント「ビットコイン2024」への出席を予定している。米株式市場では、トランプ氏のSNS(交流サイト)トゥルース・ソーシャルを傘下に持つトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの株価は31%急騰。ダウ工業株30種平均は最高値を更新した。米30年物国債利回りは2年債利回りを一時上回った。ドルはG10通貨全てに対し堅調に推移、メキシコペソは売られた。
トランプ氏は15日、副大統領候補にバンス上院議員を選んだと発表。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストから政治家に転身した39歳の新星。バンス氏の発言も金融市場に影響する可能性がありそうだ。「トランプ・トレード」は今後どう展開するか。投資家が注目している。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。