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円キャリー取引(キャリートレード)とは? 相場急変動のからくりをわかりやすく解説

記事公開日 2024/10/10 16:30 最終更新日 2024/10/11 08:38 経済・ビジネス コラム・インタビュー 市場用語再点検 金融コラム

市場用語再点検!円キャリー取引

【QUICK Money World 片岡 奈美】2024年8月に日経平均株価が史上最大の下げ幅を記録しました。株安を招いた要因は様々あるとされていますが、暴落のひとつのきっかけになったといわれるのが「円キャリー取引(円キャリートレード)」です。個人投資家の皆さんにとってあまり聞きなじみのない言葉だったのではないでしょうか。今回はこの取引の仕組みを紐解きつつ、なぜこの取引が相場に混乱をもたらしうるとされているのかを説明します。

円キャリー取引とは

「キャリー取引(キャリートレード)」とは「金利の低い通貨で資金調達をして、金利が高い国の資産に投資する取引」のことをいいます。金利が低いほど資金を借り入れる時に支払う利息は少なくて済みますから、資金調達コストは安くなります。そして安く借りた資金を元に高い金利をくれる国の資産に投資していけば、より高い利益を見込めます。

キャリー取引(日米イメージ)

キャリー取引には、ヘッジファンドなど短期的な売買を手掛ける投機筋のほか、様々な金融機関や外国為替証拠金(FX)を手掛ける個人投資家なども参加していると言われています。

24年春まで日本では日銀による大規模な金融緩和が続いてきました。主要国の中央銀行は22年以降インフレを抑え込もうと利上げに舵を切っていましたから、世界の国の中で日本は相対的に金利が低くなっていきました。金利の低い日本の円で資金を調達し、それを米国や新興国など高い金利の国の通貨に換えて投資する――という取引が魅力的な環境が整っていたわけです。

このように日本円を調達通貨とするキャリー取引を「円キャリー取引(円キャリートレード)」といいます。年初からどんどん進んだ円安の背景には、この円キャリー取引の増加があるのではとの見方もあります。なぜなら、円を高金利の国の通貨に換えるためには「円を売って、高金利の国の通貨を買う」という取引も伴うからです。

なお、キャリー取引の調達通貨として日本円以外の通貨が対象になることもあります。ただ、取引量が多いことや流動性が高いこともあり日本円が選ばれやすい側面があるようです。

 

キャリー取引のメリットとデメリット

キャリー取引(キャリートレード)では、金利の低い通貨で調達した資金を、金利の高い国の資産に投資していきます。2国間の金利差を利ザヤとして収益をあげる投資手法ですから、金利差が大きいほどより高い運用成果を得られるなど収益がわかりやすく、安定的な利益をあげることができます。

ですが、これは金融市場が落ち着いている場合に限ります。キャリー取引では為替相場の変動や各国金利の状況が、運用成果に大きな影響を及ぼすからです。

具体的に、円を調達通貨とする「円キャリー取引」で考えてみましょう。

仮に1ドル=160円の時に100万円を借りてドルに換えると(手数料などは考えません)6250ドルになります。その後、もし1ドル=140円と円高・ドル安方向に為替相場が動くと、6250ドルをそのまま円に両替しても87万5000円にしかなりません。為替相場の変動だけで、12万5000円ものいわゆる為替差損が発生することになります。為替差益が発生することもありますが、為替相場の変動は運用成果の不確実性を高める一因になってしまいます。

円安円高と為替差益と差損

また、金利の変動リスクも伴います。借り入れる国の金利が上昇すれば、借り入れコストは増加しますし、キャリー取引のうまみも減ってしまいます。

円キャリー取引の場合、これまでは日銀が利下げ方向に、投資先の国の中央銀行が利上げ方向に金融政策を打ち出していましたから、基本的に日本と諸外国の利ザヤは拡大する傾向にありました。しかし、日銀は24年3月にマイナス金利政策を解除すると、7月末には追加利上げを決定。金利水準自体はまだ低いものの、日銀が今後も利上げ方向に動くとなれば、金利差の縮小が意識され、円キャリー取引の妙味は乏しくなってしまいます。

利ザヤの縮小と拡大

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「円キャリー取引の巻き戻し」とは

円キャリー取引の巻き戻しとは、円を調達通貨としたキャリー取引をしていた投資家が取引を解消することです。

円キャリー取引は「日本が諸外国に比べて低金利である」「円安が進行しているか、円高にならない」という状況があってこそうまみのある取引だということは先述の通り。例えばこれが「日銀が利上げしようとしている(国内外の金利差が縮小する)」「円高が進行して為替差損が出そうだ」などという状況に変わってしまえば、どうでしょうか。

投資家らは損失を被らないように、あるいは損失を最小限に抑えようと、取引の解消に向かうことでしょう。円を用いたキャリー取引の場合は、高金利通貨を円に戻す動きが膨らみます。円に戻すということは、円を買うということですから、円高方向に力がかかります。円キャリー取引が円安圧力となっていたのとは真逆の現象が起きることになります。

この他にも、地政学リスクの発生や金融市場のボラティリティが高まるなどすれば、不確実性の高い資産からより安全な資産に資金を移動させる動きが強まりやすくなります。相対的に安全な通貨とされる円の人気が高まり、円高も進行しやすくなることでしょう。こういった場合にも、円キャリー取引の巻き戻しが起きやすいと考えられます。

 

2024年8月に起きたこと

この数年、低金利の円を調達してドルなどの高金利通貨で運用する「円キャリー取引」は国内外の金利差が広がるなかで膨らんできました。円キャリー取引に伴う円安も進行し、1ドル=161円台と歴史的な水準にまで達しました。

この背景には、日銀の大規模緩和の長期継続がありました。円キャリー取引の規模を反映するとされる外国銀行在日支店の「本支店勘定(資産)」は異次元緩和下で大きく膨らみ、特に日米の金利差が意識された22年後半からの膨張が顕著になっています。

ところが、日銀が7月に追加の利上げをし、インフレの続いてきた米国では米連邦準備理事会(FRB)が9月にも利下げに動くとの思惑が膨らむと、円相場は円高方向に振れ始めます。

米ドル/円

日銀が追加利上げを決めたのは7月30~31日に開かれた金融政策決定会合です。その後の記者会見で、植田和男総裁も追加利上げに意欲的な姿勢を示しました。日本の金融政策の方向性の違いを意識した市場が反応し、翌週の8月5日には日経平均株価が過去最大の下落幅を記録しました。7月上旬には161円台だった円相場は、8月5日には1ドル=141円台と、20円ほど円高・ドル安が進みました。あまりに急激な円安修正が、大幅な株安を引き起こしたと言われています。

日経平均株価

さて、円キャリー取引が、日本円を調達して外貨建ての資産に投資する――という流れであることを考えると、日本株は投資対象外。ですが、今回の暴落の間接的な要因であると見られています。

円キャリー取引の解消には、海外資産の売却が伴います。例えば、円キャリー取引で米国債に投資していたのならば、その取引の解消に伴い米国債を売りますから、米国債の相場が下落します。また、取引解消は円高・ドル安の要因にもなります。

これが急激にそして同時に起きると、どうでしょう。米国債相場など海外資産価値の下落、急速な円高進行――こういった市場の混乱はそもそも株式投資家が嫌気するものですから、円キャリー取引に直接関係なくとも反応した売りが膨らみやすくなるのは想像に難くありません。

もちろん、円キャリー取引そのものでの損失を補填するためにリスク資産を手放して現金化する動きもあったようです。円キャリー取引を手掛けていた投資家が持ち高の調整を迫られ大量の株売りにつながった――あるいは、安価に調達した円を米ハイテク株などに投資していたため円キャリー取引の巻き戻しに伴って海外株も売られた――など、さまざまな混乱が同時に生じていたと考えられます。

<関連記事>
ブラックマンデー2.0 円キャリーバブル、ハイテク株と崩壊(永井洋一)(2024年8月5日公開)

投資家ができる備えはある?

足元の円キャリー取引の規模は数百兆円とも言われることがありますが、実際の取引量を正確に示すようなデータはありません。ただ、米商品先物取引委員会(CFTC)が公表しているヘッジファンドなど非商業部門(投機筋)の円の買い持ち高が高い水準にあれば“ヘッジ目的の円買いが広がっているのかな”などと推察することはできます。しかし、投機筋の中には手の内を公表したくないという向きもあり、こういったデータがすべての状況を正確に反映しているとはみられていません。

運用益に加えて金利の利ザヤをも獲得しようとする円キャリー取引は、内外の金利差縮小があれば取引を解消する「巻き戻し」の動きが膨らみます。巻き戻しにより、急激な円高が引き起こされることは今回のみならず、過去にもたびたび起きています。

そんな現象に個人投資家が備えられることは何でしょうか。まずは、今がどういう局面なのかを幅広い見地から知っておくこと。国内株式や円資産しか投資していないから海外の通貨当局の動きは関係ない――ではなく、国内外の金融政策の方向性や地政学リスクなど為替相場をはじめ金融市場に影響しうる幅広い情報を自分なりに理解しておくとよいでしょう。

そのうえで、例えば円キャリー取引の巻き戻しの発生リスクが高まっていると思われる局面では、円安だけでなく円高も視野に入れた銘柄・投資先選びをすることも備えのひとつになることでしょう。

円キャリー取引が巻き戻されると、円高が進行します。そうすると、海外から原材料を仕入れたり、製品を輸入したりして国内向けに販売するような企業では、円高のメリットを受けられることになります。例えば、食品業や小売業、電力などは連想しやすいですよね。海外売上高比率の低い企業や国内向けのビジネスを展開する企業なども、円高の影響は受けにくいでしょうから、そういった観点で保有する銘柄を探してみるのもよいかもしれません。

まとめ

今回は円を調達通貨としたキャリー取引について紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。

低金利の円を借り、ドルなど高金利通貨で運用することで、金利差収益を得ようとする円キャリー取引。ヘッジファンドなどの投機筋、金融機関、外国為替証拠金取引(FX)を手掛ける個人投資家など様々な投資家が参加しているといわれています。この取引が盛んになると、円売り・ドル買いの動きが強まり、円安が進行すると考えられます。

そして、何かのきっかけで円キャリー取引の巻き戻しと表現される取引の解消が一気に起きてしまうと、為替相場には円高圧力がかかってしまいます。この8月の株式相場の変動は、海外資産は保有していない、国内株式しか投資していない――といった方でも、運用収益に少なからず響いてしまったかもしれません。さまざまな相場変動の背景を知ることで、中長期的に安定した資産形成を目指していきましょう。

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QUICK Money World 片岡 奈美


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