【QUICK Money World 片岡 奈美】日本銀行(日銀)が金融政策の方針などを決定する「金融政策決定会合」。マーケット関係者なら誰もが注目する一大イベントですが、個人投資家の皆さんにとっても他人事ではありません。日銀は2024年3月に開いた金融政策決定会合でマイナス金利を解除し、7月に政策金利を0.25%に引き上げる追加利上げを実施しました。こういった金融政策の大きな変更は、皆さんの運用資産にも少なからず影響があったのではないでしょうか。今回はこの日銀の金融政策決定会合とはどのようなものなのか、詳しく紹介していきます。
1.日銀の金融政策決定会合とは?
日本の中央銀行である「日本銀行」は、国内物価の安定や金融システムの安定など多様な役割を担っています。日本銀行券(お札)を発行する「発券銀行」であり、市中銀行の銀行として資金を預かったり貸し出したりする「銀行の銀行」でもあり、国の資金である国庫金を取り扱う「政府の銀行」でもあります。
そんな日銀の最高意思決定機関は「政策委員会」です。政策委員会が金融政策について審議・決定する会合を「金融政策決定会合」といいます。金融政策の直接の目的は「物価の安定」ですが、金利の形成に影響を及ぼすことを通じて、企業や個人の投資・消費行動、ひいては経済全体の動向にも影響を与えます。金融政策決定会合では、金融調節の基本方針や政策金利の変更など、金融政策の運営に関わるさまざまな事柄を審議します。
金融政策決定会合後にはすぐに決定内容が公表されますから、日銀が足元の景気や先行きについてどう見ているのか、金融政策をどう動かしていくのかを知る絶好の機会として、市場参加者の関心が非常に高いイベントとなっています。会合の結果そのものはもちろん、会合後に開かれる日銀総裁の記者会見や、会合の前後によく目にする、日銀がどう動くのかを先読み、深読みする解説記事も注目されます。それらを手掛かりに投資家らが動くことで株式市場や債券市場、為替市場に大きく影響を与えるイベントなのです。
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金融政策決定会合の議事内容は、(1)金融市場調節方針、(2)基準割引率、基準貸付利率および預金準備率、(3)金融政策手段(オペレーションにかかる手形や債券の種類や条件、担保の種類等)、(4)経済・金融情勢に関する基本的見解など――とされています。これらの小難しい用語についても、少し説明しておきましょう。
まず(1)の「金融市場調節方針」は、金融政策の実行プロセス(金融市場調節)をどのように実施していくのかを示すものです。そして(3)に挙げられている「金融調節手段」は、現在では主に「オペレーション(オペ)」と呼ばれるものになっています。オペには大きく分けて国債を買い入れたり金融機関に資金を貸し付けたりして日銀が金融市場に資金を供給するものと、日銀が保有する国庫短期証券や国債を売却することで市中の資金を吸収するものがあります。
(2)にある「基準割引率」「基準貸付利率」とは、日銀が金融機関に直接お金を貸し出すときの基準になる金利のことです。金融調節の手段として「公定歩合」という単語を耳にされたことのある方もいらっしゃるでしょう。かつては金融機関に貸し出しをする「公定歩合」により金融調節が実施されていました。公定歩合を上げ下げし、預金金利など様々な連動する金利を動かしていたのです。ですが、金利自由化後はその連動性が薄れ、市中の金利は様々な条件を背景に変動していくようになっています。かつての公定歩合は現在では「基準貸付利率」と呼ばれ、短期市場金利の上限と目されるようになっています。
(2)のもうひとつの単語の「預金準備率」も、かつて金融緩和・引き締めの手段として使われていた「準備率操作」に関わるものです。民間金融機関には預金残高のうち一定比率(準備率)以上の金額を日銀の当座預金に準備預金として積み立てなければならないという義務があります。これを「準備預金制度」といい、かつてはこの「預金準備率」を上下させることで金融引き締めや金融緩和の手段としていました。現在はそういった手段としては使われておらず、日本の準備率も1991年10月から変更はありません。準備預金制度の準備率については金融政策決定会合で設定・変更・廃止されることになっています。
なお、国内では金融緩和策が長く続いたこともあり、多くの金融機関が義務付けられた準備額以上の「超過準備」を当座預金に置くようになっています。日銀の当座預金は本来無利子ですが、超過分には「補完当座預金制度」により、置いておけば利息が付くことになっています。
2016年1月に導入された「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」ではこの日銀当座預金を3つに分けて、「プラス金利」「ゼロ金利」「マイナス金利」をそれぞれ適応する区分を作っていました。マイナス金利政策の解除により、2024年3月からは再び超過準備にプラス金利が適用されるようになっています。
(4)の「経済・金融情勢に関する基本的見解など」は、金融政策運営に必要となる先行きの経済や物価の見通し、それぞれの上振れ要因や下振れ要因を点検していくものです。「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」としては年に4回(通常は1月、4月、7月、10月)、金融政策決定会合の後に公表しています。
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2.いつ開かれる? スケジュールは?
金融政策決定会合は年に8回、それぞれ2日間ずつ開催されます。年の半ばごろには翌年までの予定が日銀のホームページで公表されています。
現在明らかになっている2024年と2025年の開催日程は以下の通りです。
なお、年8回の金融政策決定会合のうち2回に1回にあたる計4回(通常1月、4月、7月、10月)の会合では、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、それに沿った金融政策運営の考え方も整理されることになっています。その内容は会合終了後に「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)として公表されます。
3.会合のメンバーや議決方法は?
金融政策決定会合を開く日銀の政策委員会のメンバーは、総裁、副総裁2名、審議委員6名の計9名の委員で構成されています。メンバーは衆参両議院の同意を得て、内閣が任命しています。任期は5年です。
2024年10月現在の政策委員会のメンバーとそれぞれの任期は以下の通りです。
金融政策決定会合の審議を経て決まる金融政策の方針は、政策委員による多数決によって議決されます。ですから、委員の任期切れが近づくと、後任はどのような人になるのかも市場では話題になります。政策委員のメンバー構成で、金融緩和に積極的とみられる「リフレ派」が増えるのか、あるいは金融政策の副作用に懸念を示す「リフレ慎重派」「反リフレ派」が増えるのかは、多数決で決まる金融政策の方向性に大きく影響してくると考えられるからです。
4.決定内容はどのように公表される?
金融政策決定会合の決定内容は、会合終了後、「当面の金融政策運営について」としてただちに公表されることになっています。今の金融政策がそのまま継続されるのか、何か変わる点があるのか――など、決定内容は日銀のホームページ上で即座に公表されます。同時に、日銀に詰めている報道各社の記者も日銀から配布される公表資料を元に速報を出していますから、ニュースなどでも目にすることでしょう。
ちなみに、この「当面の金融政策運営について」という文書の公表時刻は定まっていません。決まっているのは「会合終了後ただちに」ということだけ。ですから、2日目の会合が終了するとみられる正午ごろになると、金融市場関係者は固唾を飲んで日銀の結果発表を待ち構えることになります。
決定会合のうち2回に1回は「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」も話し合われ、基本的見解が会合終了後に合わせて公表されています。
金融政策決定会合が終了した日の午後(3時30分から)は日銀総裁が記者会見を開くのが定例です。金融政策に変更があってもなくても開かれ、なぜこのような決定内容になったのかを対外的に説明します。記者会見の様子はテレビなどで中継されることもありますし、日銀もネット上で配信をしています。
この他にも、「主な意見」や「議事要旨」なども後日公表されることになっています。「当面の金融政策運営について」や「展望レポート」が公表される金融政策決定会合の終了直後は大きく相場が動きやすいのですが、それ以外にも以下のようなものが発表されるタイミングでも日銀の動向を手がかりとした売買が発生することがあります。
「経済・物価情勢の展望」
別名「展望レポート」。年4回(通常1月、4月、7月、10月)の会合終了後に公表されます。「基本的見解」は会合終了後すぐに、「背景説明を含む全文」は翌営業日の午後2時に、それぞれ公表されています。
政策委員会による実質国内総生産(GDP)の見通しと消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の見通しが盛り込まれ、日銀の経済展望やリスク要因への懸念度合いなどを踏まえたうえで先行きの金融政策運営の考え方が示されます。
「主な意見」
金融政策決定会合で政策委員から出た発言をまとめ、後日(おおむね1週間後、朝8時50分)に公表しています。どの政策委員の発言かは明かされないものの、経済・物価動向や金融政策についてどのような意見があったのかが具体的に示されます。
「議事要旨」
議事要旨は次の決定会合で承認のうえ、その3営業日後の朝8時50分に公表されることになっています。当該の会合からはおおむね2か月後になりますが、どのような議論・意見があったのかを確認することができます。
なお、各政策委員がどのような発言をしたのかといった「議事録」は、各会合から10年を経過した後に公表されることになっています。
5.過去の会合ではどのようなことが決まった? なぜ注目される?
金融政策決定会合が金融市場にとって大きなイベントだとはいえ、ころころと金融政策が変わるわけではありません。むしろ、金融政策は維持すると決まる会合の方が多いはずです。政策が変わらないのならそれほど騒ぎ立てる必要もないのでは?――とも思えますが、そうはいきません。会合の結果やその後の記者会見、資料の公表などに毎回注目が集まるのは、内容変更の有無が相場に影響を与えるのはもちろん、この先いつ頃にどういう金融政策の変更がされうるのかを推し測るヒントがちりばめられているからです。
さて、この記事を書いている2024年11月時点では米大統領選の影響など複合的な要因で相場は上下しています。ただ、10月末の日銀の金融政策決定会合の結果に限っていえば「市場予想通りに金融政策は現状維持」となり、同時に発表された展望レポートも「前回(7月)から目立った変化はない」という状況でしたので、相場への影響はそう大きいものではなかったと見られています。それでも、10月の金融政策決定会合の結果や日銀総裁の記者会見を受けて「追加利上げがそう遠くはない」「金融引き締めには消極的ではなさそうだ」といった受け止めも出て、為替相場では一段の円高・ドル安や進みました。
金融政策に特に変更が見られない場合は「無風」などと市場で評されることもありますが、どういう結果が出ても何らかの思惑が働き、先読みをしようとする動きが出やすいものです。もちろん、何らかの政策変更があった場合はさらに大きな相場変動が起きやすくなります。
たとえば、日経平均株価が過去最大の下落幅を記録した2024年8月上旬の出来事は、強く記憶されている個人投資家の方も多いのではないでしょうか。米国の景気減速への懸念が強まる中、日銀が7月会合で追加利上げを決めたことで、日米金利差の縮小が意識され為替や株価の急変動につながっていったと見られています。
もう少しさかのぼってマイナス金利を解除した24年3月会合後の日銀総裁の記者会見では追加利上げの可能性は示しつつ「緩和的な金融環境は続く」と説明しました。日米金利差を手掛かりに円安・ドル高が進行していた時期とあって、日米の金融政策の方向性の違いが意識され、円安が進行する場面がありました。
このように、過去の会合時期や決定内容と為替や株価などの変動を照らしてみると、それなりに影響を受けていることが垣間見えるかと思います。
そして会合から約2カ月後に公表される「議事要旨」も、会合でどのようなやり取りがあったのかを読み解く手助けとなるため、重要視されています。例えば11月に発表された9月の会合の議事要旨をみると、先行きの政策金利の引き上げなどの政策判断などを巡り「海外経済の不確実性が低下した時が妥当で、緩和的な金融環境を粘り強く続ける我慢の局面」「金融資本市場が不安定な状況で、利上げすることはない」「時間をかけすぎず、引き上げていくことが望ましいとの考えは不変」など様々な意見が出ていたことがわかります。
日銀が会合直後に公表文で発するメッセージは「日銀文学」と揶揄されることもあるほど、時に難解なものです。使われる用語が一般にはなじみにくかったり、聞き手によってとらえ方が様々だったりすることがあるためです。そういう意味でも、決定会合でのやり取りが垣間見える議事要旨は、日銀の意図を読み解く重要な手がかりとして注目されています。
まとめ
日銀の「金融政策決定会合」は金融市場の動向を左右するイベントです。その時々の金融政策に変更があったかどうかもさることながら、この先の物価などの見通しも示されるなど先々の日銀の動向を読み解くうえでもたくさんのヒントを与えてくれるものです。会合の結果が発表される当日はもちろん、後日に明らかになる議事要旨なども金融市場では売買の手掛かりとされることもあります。
こういった日銀の動向は報道などを通じて知ることが多いかもしれません。ですが、会合の結果や日銀総裁の記者会見、議事要旨などは、日銀が公表している資料ですから、どなたでも直接確認することができます。実際の公表内容を確認し、この表現を他の投資家がどうとらえたのか、だから相場はこう動いたのかとご自身の目で確認して今後に役立てたり、自分なりのヒントを探したりしていくのも、大切な資産を運用するためには有益でしょう。
個人投資家の皆さんも、資産運用に取り組まれる際にはぜひ「日銀の金融政策決定会合」というイベントに、注目してみてください。
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