野村グループがメインスポンサーを務める「第18回 グローバル・フィデューシャリー・シンポジウム」が11月11日から13日までの3日間、都内のホテルで開催された。200名を超える国内外の年金運用関係者が参加し、日本の公的年金制度の課題や企業年金の現状などをテーマとした様々な基調講演やパネルディスカッションを聴講した。
■年金制度の持続可能性が課題
少子高齢化が進む日本の年金制度の持続可能性に関心が集まっている。11月末には厚生労働省から制度改革案として、厚生年金の積立金を使って、今後目減りすると予想される基礎年金を底上げする案や、年収が一定水準を超える人の負担増となる標準報酬月額の上限引き上げ案も示された。基調講演では、年金財政検証や公的・私的年金制度の課題も取り上げられた。
伊藤隆敏・コロンビア大学教授は「日本の公的・私的(DC)年金制度の課題とサステナブルな発展に向けて」と題した講演の中で、「終身雇用が揺らぎ、年功序列や賃金の後払いともいえる退職金は経済合理性が失われつつある。賦課方式の公的年金は、少子高齢化などから制度維持が困難だ。企業年金などの移動性の向上も必要だ。DC年金の拡充も含めて、若年層が感じる世代間不公平を和らげる年金制度の改正・拡充が必要となる」と語った。
■アセットオーナー・プリンシプルの受け入れでより良い運用を
今年8月、内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局によって策定・公表された、「アセットオーナー・プリンシプル」(アセットオーナーに係る共通の原則)も注目を集めたテーマだった。金融庁 市場企画室長の今泉宣親氏は、兼務する「内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局企画官」の立場でアセットオーナー・プリンシプルについて講演した。
今泉氏は講演の中で、「アセットオーナーは、受益者の最善の利益を追求するため、リスク・コスト・リターンのバランスを最適化できるよう、厳しい目で優れた運用委託先を発掘・選別していくことが必要だ。それが、インベストメントチェーン(投資の連鎖)全体のプラスになり、ひいては社会全体のためになる」と述べた。
「アセットオーナー・プリンシプルの受け入れは、受益者の最善の利益を追求するための備えがあることをアセットオーナー自らが点検してステークホルダーなどに示すことで対話や協働につなげ、不足部分は外部からの知見を取り入れ、受益者のためのより良い運用がなされるというメカニズムを想定している」と説明した。
■GPIF、今中期の運用実績は好調
シンポジウムの最終プログラムには、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の宮園雅敬理事長が登壇し、2024年度で終了する中期目標期間を振り返って運用実績などについて説明した。
24年9月末のGPIFの運用資産額は248兆円と、年金基金としては世界最大の規模となる。今年度は20年度からスタートした第4期中期目標期間の最終年度にあたり、実質的な運用利回り目標プラス1.7%に対して2023年度末までの実績は年率プラス4.24%と好調で、年金財政に貢献している。
なお、GPIFの第5期中期目標(25~29年度)は25年3月に発表される予定。それに先立ち、12月2日に厚生労働省は「GPIFの次期運用目標等について」を公表し、運用利回り目標をプラス1.9%とする案が示された。
GPIFほど巨額の運用資産になると、基本ポートフォリオと実際のポートフォリオとの資産配分のずれを管理することが重要となる。宮園氏は、「23年度のようなボラティリティー(変動率)が高い市場環境では、基本ポートフォリオからのずれを修正するリバランス(資産配分の調整)の金額規模が非常に大きくなる。約250兆円もの資産規模による流動性の制約があるなかで、機動的かつ精緻にリバランスを行うことは非常に難易度の高い仕事だ。これこそがGPIFに求められる唯一無二の専門性だと考えている」と語った。
(QUICK資産運用研究所)