テスラのモデルYに乗って丸2年。個人的見解だが、運転するごとに同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の哲学を感じる。「質素」といえるほどシンプルかつスムーズ。他メーカーのクルマを検討することはもうない。マスク氏が購入したSNS(交流サイト)のX。旧ツイッターの人員の約8割を削減した。機能不全になると当初批判されたが、目立った問題は報告されていない。マスク氏率いる宇宙開発企業スペースXのロケットの飛ぶ光景はロサンゼルスで普通になった。
トランプ次期米大統領は先月12日、マスク氏と実業家ビベック・ラマスワミ氏が「政府効率化省(DOGE)」を率いると発表した。日本語訳には「省」がついており、連邦政府機関のように思えるが、実体はNPO(非営利組織)もしくは民間シンクタンク。DOGEについてトランプ氏は、「政府機関を再構築する」とSNS「トゥルース・ソーシャル」で説明した。米国の財政赤字は膨張し、債務利払いは増加の一途。持続不可能と幅広く指摘される。抜本的リストラをマスク氏らに委ねた。
マスク氏とラマスワミ氏は先月12日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に共同寄稿。過去の最高裁判所の判例を列挙、規制の撤廃、行政組織の縮小、コスト削減の3つを追求し、数十年続く官僚の権力拡大を反転させると主張した。取り上げた判例は詳細で具体的だ。法律の専門家と長く議論したうえでの寄稿であることがうかがえ、本気度が伝わる。「ワシントンの既得権益からの猛攻撃に対処する準備はできている。米建国250周年の2026年7月4日までにDOGEの存在を必要ないものにするのが最優先目標」と記した。
CNBCが全米で実施した調査で、回答者の過半数がトランプ氏の公約する政策を支持した。政府支出削減については、50%が2025年の最優先課題と答え、反対は22%にとどまった。株式市場では「マスクトレード」ともいえる現象が確認できる。テスラの株価は一時、大統領選前の約2倍に急騰。20日時点の時価総額は1.352兆ドル(約210兆円)と、トヨタ自動車の約5倍に膨らんだ。株式未公開のスペースXの企業価値も急上昇。ブルームバーグ通信によると、1株あたり評価額は3カ月前の112ドルから185ドルに上がり、企業価値は3500億ドル(約54兆6000億円)と世界で最も価値のあるスタートアップ企業になった。USニューズ・アンド・ワールド・リポート誌は、マスク氏と関係の深いペイパルやモディーン・マニュファクチャリングの株価のほか、暗号資産(仮想通貨)ビットコインも大幅上昇したと報じた。
バイデン米大統領は来年3月までのつなぎ予算に署名、政府機関の閉鎖は回避された。予算審議をめぐっては、議員給与の引き上げが盛り込まれていたが、マスク氏の反対を受け削除された。NBCニュースによると、当初1500ページもあった法案はわずか116ページになった。CNNの22日朝の討論番組で、「マスク大統領」が共和党を主導していると民主党関係者は主張。CBSの報道番組に出演した共和党のゴンザレス下院議員は「マスク首相」と呼んだ。次期政権発足まで1カ月を切った。影響力がさらに増す可能性があり、マスク氏のX投稿の注目度は高まるばかりだ。