バイデン米政権時代はいつもCNNを見ていた。昨年11月の大統領選後、FOXニュースの視聴時間が長くなった。トランプ大統領の発言をほぼ全て中継、政策に関する報道はどこよりも早い。FOXニュースによると、1日あたりの視聴者数はスポーツ専門局のESPNの倍以上、CNNの4倍超で、全ケーブルテレビチャンネルの首位。プライムタイムの視聴者数は地上波のABCとNBCを抜いた。ヘグセス国防長官はFOXニュースの元司会者。トランプ氏はFOXニュースの複数の司会者のインタビューを積極的に受けることで知られる。トランプ政権の重要なプラットフォームになった。
トランプ関税と貿易戦争懸念で金融市場が大混乱。リセッション(景気後退)が強く意識された。報復を恐れて政策にネガティブな発言を避けてきたウォール街の重鎮が口を開き、企業経営者の一部がトランプ氏の政策を批判しはじめた。政権に深く関与するイーロン・マスク氏でさえ関税撤廃を訴えたが、トランプ氏の心に響かなかった。トランプ氏は2日、誰もが想定したより広範囲で大規模な相互関税を発表。米国債、ドル、米国株がいずれも下落するトリプル安で市場は反応。投資家の米国離れが鮮明になった。
相互関税の発動から約半日たった9日午後、トランプ氏は中国を除く国・地域の相互関税上乗せ措置の90日間停止を表明した。CNNは、ベッセント財務長官がトランプ関税の一時停止に大きな役割を果たしたと報じた。米国債の売り加速をめぐる懸念をトランプ氏に直接伝えたとしている。米10年物国債相場が下落すると利回りは上昇、住宅ローンや企業の資金調達コストなど幅広いコスト上昇に直面すると伝えた。確かに、トランプ氏は、「債券市場はやっかいだ」と執務室で記者団につぶやいた。
ベッセント氏に加え、FOXニュースがトランプ関税を修正に導いた可能性がある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、FOXの朝の番組「モーニングス・ウィズ・マリア」で、JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が「関税は景気後退を招きやすい」と警告、その直後にトランプ氏は相互関税の修正をSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿したと報じた。トランプ氏は、FOXニュースの司会者マリア・バーティロモ氏のダイモン氏に対するインタビューについて何度も言及したとしている。
バーティロモ氏はCNNを経てCNBCと契約、ニューヨーク証券取引所のフロアからの市況報道で頭角を現し、市場関係者から「マネー・ハニー」と呼ばれた。FOX移籍後は朝の番組を担当、トランプ氏や側近、ダイモン氏をはじめとする金融大手のトップにインタビュー。金融市場の注目を集めると同時に、トランプ氏の政策に影響を与えている。ウォール・ストリート・ジャーナルは、バーティロモ氏はトランプ関税について他のFOXの司会者より鋭い見解を示すことが多く、ベッセント氏とのインタビューで「なぜそんなことをするのか」と述べたと伝えた。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。