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経済って何だろう? 自然に生まれる秩序の不思議(木村貴の経済の法則!)

記事公開日 2025/1/10 11:30 最終更新日 2025/1/10 11:30 資本主義 木村貴 市場経済 石破茂 地方創生 最低賃金 木村貴の経済の法則!

【QUICK解説委員長 木村貴】投資や資産運用はもちろん、仕事や家計の管理、将来の進路の選択などにとっても、経済についての理解は欠かせません。そもそも経済とはどのようなものなのでしょうか。

誰も命令しないのに

日本語の「経済」は、中国の古典に登場する「経世済民(けいせいさいみん)」に基づく言葉だといわれます。経世済民とは、「世を治め、民を救う」という意味だそうです。重税などで民を苦しめる暴君をいさめるには、役に立ちそうな言葉です。

ですが、誤解を招きやすい言葉でもあります。「偉い人」がそれらしい政策を実行すれば、経済はうまくいくという錯覚につながりかねないからです。まるで優れた技術者が設計すれば、工場が製品をどんどん生産するようにです。

けれども、経済は工場ではありません。工場は原材料からパン、車、パソコンといった特定の製品を生産します。そのためには、その目的を果たせるように、あらかじめ専門家が知恵を絞り、生産の手順や人員・機械の配置を精密に設計しなければなりません。

これに対し、経済が生み出すのは特定の製品ではありません。あらゆる製品やサービスです。また、生み出される製品・サービスの内容は、同じものを生産し続ける工場と違って、常に変化します。消費者の好みやニーズ、生産側のテクノロジーが常に変化し続けるからです。

さらに大きな違いは、経済(とくに市場経済)には指示する人がいない点です。工場の場合、工場長が生産活動の全体を監督し、手順や配置に変更が必要であれば、その都度指示します。ところが、経済にはそのような監督者はいません。

政府が個々の業界に対して規制や指導をする場合はありますが、経済全体について、どの会社が何をどれだけ作れといった命令を下すことはありません。かつてのソ連や東欧などの社会主義国ではそうしたやり方をしていましたが、現在世界の大半を占める資本主義国でそのようなことはありません。

もし工場長が適切な指示をしなければ、工場の生産活動は混乱することでしょう。ところが興味深いことに、経済は上から命令する人が誰もいないにもかかわらず、日常、大きな問題は生じていません。

たとえば、東京都の食料自給率はほぼ0%といわれますが、都内で飢餓が広がることはありません。日本各地や海外で生産された食料を購入できるからです。それは市場経済を通じて自然に取引されているだけで、政府の命令に従ったわけではありません。

センス・オブ・ワンダー

誰も指示しないのに、世界全体でみれば巨大な規模の経済活動が日々円滑に営まれているのは、あらためて考えると不思議なことです。それは大自然の営みに似ています。

著書『沈黙の春』で有名なアメリカの生物学者、レイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』という別の本で、自然の不思議さに目を見張る感性(センス・オブ・ワンダー)を大切にしたいと語ります。少し紹介しましょう。

自然の美しさ

『センス・オブ・ワンダー』(新潮文庫)より

「たとえば、子どもといっしょに空を見あげてみましょう。そこには夜明けや黄昏の美しさがあり、流れる雲、夜空にまたたく星があります」

「雨の日には外にでて、雨に顔を打たせながら、海から空、そして地上へと姿をかえていくひとしずくの水の長い旅路に思いをめぐらせることもできるでしょう」

「あなたが都会でくらしているとしても、公園やゴルフ場などで、あの不思議な鳥の渡りを見て、季節の移ろいを感じることもできるのです」

豊かな感性に満ちた美しい文章です。カーソンは「目にはしていながら、ほんとうには見ていないことも多いのです」と述べ、見過ごしていた身近な美しさと驚きに目を向けるよう促します。たしかに、自然は驚異にあふれています。

けれども、自然の驚異に劣らないすばらしい驚異を、私たちは日々目にしています。それが経済の驚異です。

鉛筆という神秘

日常から少し離れた自然と違い、経済はせわしない日常そのものです。しかし、そんな平凡な営みに、驚きが隠されています。

アメリカの実業家で教育団体の創設者、作家でもあったレナード・リードは「私は鉛筆」という物語風のエッセイを1958年に発表しました。1本のありふれた鉛筆がこう語り始めます。「私は神秘です。木や夕焼け、稲妻よりも」

鉛筆はさらに意外なことを言います。「私をどうやってこしらえるのか、知っている人は1人もいません」

なぜでしょうか。なんの変哲もない鉛筆でも、できあがるまでには誰もわからないほど多くの人々がさまざまな形でかかわっているからです。

まず最初に、カリフォルニア州の北部やオレゴン州に生えている1本の真っすぐなヒマラヤ杉が材料の材木となります。この木を伐採して、鉄道の引き込み線があるところまで材木を運んでいくためには、のこぎりやトラックやロープや、その他にも数えきれないほど多様な道具や用具が必要になります。

のこぎりや斧やエンジンをこしらえるためには、鉱石を採掘し、鉄鋼をこしらえ、これらをさらに精錬し精製しなければなりません。リードはさらに鉛筆の口を借りて、木部のほか、黒鉛の芯、真鍮の環、消しゴムなどの製造に、いかに世界中の多くの人々がかかわっているかを描いていきます。

驚くべきなのは、想像以上に多くの人々が製造過程にかかわっている事実だけではありません。すでに述べたように、誰かが中央集権的な本部から命令を下しているわけでもないのに、鉛筆がちゃんと生産されることです。

アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンは著書『選択の自由』でこのエッセイを紹介し、感嘆を込めてこう記しています。

「何千人もの人びとは、あちらこちらの諸国に住んでいて、異なった言語をしゃべり、いろいろな違った宗教を信仰しているだけでなく、ひょっとするとお互いに憎悪し合っている可能性さえある。そうだというのに、このような相互間の相違は、鉛筆を生産するためお互いが協同するのに、なんの障害にもなっていない」

令和の日本列島改造

誰も命令しないのに、人々の自発的な協力によって自然に秩序が生まれ、生産や消費がスムーズに営まれていく。これが経済の神秘であり、驚異です。美しさといってもいいでしょう。

自然環境に人間が過度に手を加えることは、よく批判されます。ところが、同じように自律的な秩序である経済に対する介入は、政府が主導し、盛んに実施しています。

石破茂首相は年頭の記者会見で、「令和の日本列島改造」による地方創生を進めると強調しました。

政府がまとめた地方創生に関する「基本的な考え方」によると、具体的には、地域間・男女間の賃金格差の是正や最低賃金の引き上げ、農林水産品や食品のブランド創設や海外展開、新興企業を育てる「スタートアップ・エコシステム」の環境整備などに取り組むとしています。

政府が減税や規制緩和によって経済への介入をなくし、それによって産業の自然な発展を促すのであれば、望ましいことです。けれども、政府の命令によって無理に賃金を上げようとしたり、補助金を使って食品のブランド創設や海外展開を後押ししたりすれば、経済の秩序にひずみが生まれ、かえって良くない結果をもたらすでしょう。

たとえば、賃金の不自然な上昇によって企業が人を雇えなくなったり、魅力の乏しいブランドに補助金をつぎ込んで税金を無駄にしたりといったようにです。

「日本列島改造」という考えは、これまで説明してきた経済の自律的な性格とは相容れません。経済は自然に生まれる秩序であり、政府が命令によって「改造」しようとすれば、その秩序を壊してしまいます。

私たちが経済について考えるための出発点は、経済の自律的な性質を理解し、それを尊重することでしょう。

この連載コラムは、経済の基本についてエピソードを交えながらやさしく解説していきます。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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