再び相場急変のきっかけになるかもしれないと、市場が警戒していた1月の米消費者物価指数(日本時間14日午後10時30分発表)は、市場予想の前月比0.3%上昇に対し、0.5%の上昇と強めの数字となった。コアCPIも予想の0.2%上昇を上回る0.3%上昇と上振れした。
発表直後、米10年債利回りは2.81%台から2.88%へ急上昇。その後も上げ幅を広げ、2014年1月以来となる2.92%まで上昇した。
しかし、外国為替市場の反応は複雑だった。発表直後、外為市場で円相場は1ドル=107円20銭前後から107円40銭台後半へ下落したものの、急速に下げ渋り107円レベルへ上昇した。その後は107円を挟んだ一進一退の動きとなった。
ドルインデックスの動きはより顕著で、発表直後に89.7から90.1に急上昇したものの、しばらくすると発表前のレベルに戻し、その後はジリジリと下落。東京時間15日午前6時ごろには89を割り込む「ドル安」となっている。
【ドルインデックスとドル・円相場の値動き】
(注)QUICK FactSet Workstationより作成
教科書的に考えれば、インフレの上昇で実質金利が低下し、ドル安に向かったと見ることができる。ただ、前年比ベースでみたCPIはコアともに概ね横ばい。期待物価上昇率を示す米ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の上昇も長期金利を下回り、実質金利からのアプローチは説得力に欠ける。
今回のCPIの上昇要因としては「原油高を背景としたエネルギー物価の大幅上昇が主因。コアCPIの伸びも衣料品価格が押し上げており、足元で全般的なインフレ圧力が加速している状況にはない」(米国みずほ総研)。CPIと同時に発表された1月の小売売上高が下振れと相まって、ドル安要因になったと考えることもできる。ただ、為替市場だけが反応したというのも、マーケットに携わる者としては、納得できない。
マーケット感覚的には、やはり「ドル安地合いにある」ということなのかもしれない。トランプ米大統領は12日、不公正な貿易慣行を続ける国からの輸入品に「報復関税」を課すと発言。米国の保護貿易主義が強まることが懸念されている。
トランプ大統領就任以降、ドルインデックスの下落基調は明らかだ。米国がドル安政策に転換した可能性も捨てきれない。チャートをみれば、少し前までドル円が110~115円を中心としたレンジだったことの方が不思議に見える。ましてや、トランプ大統領は「中国や日本、韓国との間で莫大な金を失っている」と名指ししており、円高・ドル安懸念は簡単には払しょくできない状況だ。
「ドル安・円高地合い」のなかでは、ちょっとした材料で円高に振れる。債券市場では日銀の次期正副総裁人事やその政策が話題になっているが、このタイミングで「緩和縮小」の思惑が出ようものなら、一気に円高が加速しかねない。海外金利の上昇は円金利の上昇要因ではあるが、それが円高につながるようなら、日銀は断固として阻止するだろう。
(QUICKデリバティブズコメント)
※QUICKデリバティブズコメントで配信したニュースを再編集した記事です。トレーダーやディーラー、運用者の方々へ日経平均先物・オプション、債券現物、先物を中心に旬のマーケット情報をお伝えしています。ライター独自の分析に加え、証券会社や機関投資家など運用・調査部門への独自のネットワークから情報を収集し、ご提供しています。