ネット証券5社(SBI証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券、カブドットコム証券)のNISA口座稼働状況によると、2月の月間買い付け額トップはJT(2914)の35億7900万円だった。NISAは年120万円までの投資額について5年間、売却益や配当が非課税となる。このため配当利回りが高い銘柄が物色されやすい傾向がある。
株主還元に積極的なことで知られるJTは今期、14期連続の増配を予定している。一方、足元の株価は約3年ぶりの安値圏で低迷していることから、配当利回りは5%に達している。中長期的にみて「割安」と感じる個人投資家がNISA口座を通じてJT株の下値を拾っているとみられる。
一般的に高配当利回り銘柄というと、業績面や株価変動の激しい中小型株に多いイメージだが、JTは連続増配実施中の主力株であり、ディフェンブ色が強い。確かに5%の配当利回りは魅力的に映るかもしれない。しかし、本当に割安だろうか。
加熱式たばこ、全国展開に遅れ
JTはたばこ事業、医療事業、食品加工事業などを手掛けるが、収益の大半はたばこ事業。たばこ事業の評価がカギを握る。2月上旬に発表した2017年12月期決算は、売上収益が前期比0.2%減の2兆1396億円、営業利益は5.4%減の5611億円と減収減益だった。海外のたばこ販売本数は0.1%減の3985億本と微減だったが、国内のたばこ販売本数は12.5%減の929億本と、1985年の民営化以降初めて1000億本を下回った。顕著なたばこ離れが業績に響いている。
国内たばこ販売の落ち込みを補うと期待されているのが、加熱式たばこ市場の拡大だ。加熱式たばこは、タバコの葉を加工したスティックやカプセルを専用機器に差し込み、加熱して蒸気を吸う。現在、国内のたばこ市場の1割超を占めるとされる。
JTの切り札は加熱式タバコ「プルーム・テック」。東京都内など地域限定で販売しており、今年上期にも全国展開する予定だった。しかし、カプセル用の特殊な生産設備が必要なため生産に遅れが生じ、9月に延期することになった。本決算発表時に高温加熱式の新型プルーム・テックを年内にも投入する意向を示したが、現行の低温加熱タイプの発売時期次第では、新型の投入時期も不透明感が漂う。
JTは13年にプルーム・テックの前身である加熱式タバコ「プルーム」を発売したが失敗に終わった。一方、米フィリップ・モリスが15年9月に発売した「アイコス」は人気を集め、加熱式たばこ市場を席巻。後塵を拝したJTがプルーム・テックで巻き返すと期待されていただけに、全国展開の遅れの影響は小さくない。
たばこ税の引き上げも痛手に
たばこ税の引き上げも痛手となりそうだ。紙巻たばこは今年10月から複数年かけて段階的に値上げされ、加熱式は5年かけて現行の紙巻の1~8割程度の税率から、7~8割程度まで引き上げられる見通し。現在、アイコスとプルーム・テックの価格は同じ460円だが、紙巻きたばこの税率を100%とした場合、アイコスの税率は78%と増税余地が小さいが、プルーム・テックは14%と余地が大きい。大幅値上げを余儀なくされると、価格競争力で見劣りしかねない。
アナリストの評価も気になるところ。SMBC日興証券は約4000億円のフリーキャッシュフロー(純現金収支、FCF)の創出力と積極的な株主還元姿勢を考慮すると当面減配リスクは小さいが、グローバルたばこメーカー5社の平均配当利回り(約5%)を勘案すれば割安感があるとは言えないと指摘。急成長する加熱式たばこを含むリスク低減製品(RRP)市場で、高温加熱式製品の新製品投入や生産体制の整備で巻き返しを図り、JT固有の課題である国内たばこ市場でシェア奪還を実現する必要があるとみている。
野村証券は、JTの国内たばこ事業は今期まで厳しいが、来期以降は収益性の高い加熱式たばこを牽引役に増益転換すると予想。現行の低温加熱式のプルーム・テックと高温加熱式の新型の投入によって加熱式たばこで一定のシェアを獲得することで、国内たばこ市場のシェアは来期から上昇に転じると予想する。海外たばこ事業は今期からトップラインが牽引する利益成長に回帰し、来期には調整後営業利益で2014年12月期以来の最高益を更新するとみている。
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