新興国経済への警戒感がさらに強まっている。イラン情勢の緊迫と米金利上昇を背景に、経済基盤の弱い国の通貨が対米ドルで売られやすくなり、アルゼンチンはペソ安を阻止するために国際通貨基金(IMF)に支援を仰ぐ事態になった。支援実現となればアルゼンチン問題は一歩進展するが、中東の地政学リスクと米ドル高の傾向が変わらなければ根本的な解決とは言えないだろう。
アルゼンチンのマクリ大統領は8日、融資枠の設定に向けてIMFと協議を始めたと明かした。融資枠の設定により、アルゼンチンは手元資金が増えてペソ買い・米ドル売りの為替介入に機動的に踏み切れる。このニュースは8日の外国為替市場では好感され、通貨ペソは下げ止まった。
アルゼンチン政府はこれまで外貨準備の不足に悩み、通貨防衛に金融政策の引き締めで臨むしかなかった。年始に1ドル=19ペソ付近で推移していたペソは一時23ペソ付近まで下落。アルゼンチン中央銀行は政策金利を40%まで上げ、通貨安に対抗してきたが、景気悪化や社会不安をもたらしかねない危険な状況だった。IMFの支援はこうした状況の打開につながると期待されている。
とはいえ、債券投資家は慎重姿勢を崩せない。例えば昨年6月に発行され、高利回りで注目を集めた100年債は年初から15%近く下落している。現時点で値を戻す気配は特にみられない。
今回の融資枠設定の協議について市場では、「アルゼンチンがデフォルト(債務不履行)の危機に陥ったわけではない」との声が多い。IMFは通常、信用力のある国にのみ融資枠の設定を認めているためだ。「融資枠が設定できれば、むしろアルゼンチンの信用補完につながる」(野村証券の中島武信クオンツ・ストラテジスト)とも受け取れる。それでも01年のアルゼンチン国債のデフォルトに直面した機関投資家を中心に、疑心暗鬼は消えていない。
アルゼンチンの融資枠設定や国債の価格低迷を受け、債券投資家の視線は他の新興国にも厳しくなっている。アルゼンチンと同様に経常赤字が慢性化し、外貨準備が少ない国への懸念は強い。第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「米利上げの長期化で新興国債券から資金が流れ出すとの不安は簡単には収まりそうにない」と話す。
日本の投資家はリスク管理の制約がきついため、01年から15年近く市場から離れていたアルゼンチン債には昨年の100年債を含めてほとんど手を出していなかった。一方で国内で低金利環境が長引き、高い利回りを求めて新興国債で運用するケースは増えている。アルゼンチンの混乱は対岸の火事ではない点に注意が必要だろう。
【日経QUICKニュース(NQN ) 荒木望】
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