日銀は23日、0.110%の固定金利で無制限に国債を買い入れる指し値オペ(公開市場操作)を5カ月半ぶりに実施した。日銀が金融政策を修正するとの観測報道を背景に前週末の米国の取引時間帯で国債先物相場が急落し、23日朝方の市場でも債先売りや長期金利の上昇圧力が高まっていたためだ。さらに外国為替市場で進んでいる円高・ドル安に配慮した措置との観測は債券投資家の間では多い。
前週末にかけて日銀が長期金利の誘導目標の柔軟化や一定の金利上昇を容認する方向で検討しているとの報道が相次いだ。金融政策が早ければ7月末の金融政策決定会合で見直されるとの思惑から長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは急上昇し、朝方には0.090%と2月以来の高い水準を付けた。指し値オペはそんな中で実施された。
市場ではきょうのオペについて「0.1%が許容上限であることを改めて示す予防的な意図があった」(国内証券のマーケットエコノミスト)との指摘が出ている。日銀がここで先手を打たなければ、海外投機筋などが報道を材料に債先や10年債の売りを仕掛けかねない状況だったからだ。0.110%は市場実勢よりも高い(価格は安い)水準で応札はなく、「コストをかけずに金利上昇を抑えられた」との好意的な受け止めが目立つ。
それでも市場参加者には割り切れない気分が残る。足元のオペ減額などは政策正常化に向けた出口戦略の一環ではなく緩和政策を長く続けるための「調整」との認識が短期市場を中心に支配的になっている。報道がきっかけとしても、金利水準の修正はその延長線上にあるはずで、債券市場でもむしろ歓迎すべきことではないか――。異例の指し値オペまで踏み込む必要はなかったというわけだ。
謎を解くカギは外為市場にありそうだ。日銀が1月、超長期債買い入れをわずかに減額しただけで、海外勢は「出口が近づいた」とばかりに円買い・ドル売りを積極化した。欧米では日銀政策の複雑な枠組みの認知度があまり高くはない。金利上昇を政策正常化と円買い戦略に結びつけるムードは根強く、円相場は前週末のニューヨーク市場17時時点に比べて50銭程度高くなっている。
メリルリンチ日本証券の大崎秀一金利ストラテジストは「日銀はメディア経由で誘導目標の柔軟化などに関する『観測気球』を飛ばし、為替や株がどう反応するか試したかったのではないか」と話す。日銀の本音はおそらく「株安・円高にせずに、金利の低下しすぎを修正したい」。その実現には極めて難しいかじ取りを迫られそうだ。23日の指し値オペには、円高・株安に予防線を張らなければならない日銀の苦悩が透けて見える。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】
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