インドネシアの通貨ルピアへの売り圧力が強まっている。4日に一時1米ドル=1万5000ルピア台まで下げ、1998年7月以来、約20年ぶりの安値水準に沈んだ。米国発の貿易摩擦激化やトルコ・アルゼンチンなど新興国通貨の急落がルピアを直撃。インドネシアは「対外リスクに脆弱」という見方が海外の投機筋に勢いを与え、株式相場も急落している。
「ルピアの値動きはファンダメンタル(経済の基礎的条件)から乖離(かいり)している」。現地メディアによるとインドネシア中央銀行のペリー総裁は、最近のルピア下落は市場心理の悪化によるものだとして通貨安をけん制した。中銀は8月31日から9月4日まで7兆1000億ルピアを投入し、ルピア買い・米ドル売り介入で防戦。5日も為替介入を実施し、どうにかルピアを支えようと懸命だ。
ルピア売りの主な震源地は海外だ。トルコリラやアルゼンチンペソといった経済に不安を抱える新興国の通貨が暴落し、新興国通貨全体に不安の連鎖が広がっている。インドでも通貨ルピーが連日で過去最安値を更新。貿易摩擦が世界経済の減速を招くとの懸念や、米国の利上げ基調も引き続きルピアを含む新興国通貨にとって逆風だ。
市場ではインドネシアの十分な外貨準備高や財政規律の改善を理由に、ルピアは「売られすぎ」との声が多い。シンガポールの金融大手DBSグループ・ホールディングスは、「インドネシアにトルコやアルゼンチンとの明確な共通点はなく、ルピア売りが(危機の発生を示唆する)警告であるとは考えていない」と分析する。
とはいえインドネシアは経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱え、企業の米ドル建て債務も多い。2013年の「テーパー・タントラム(米連邦準備理事会=FRBの量的緩和縮小をめぐる市場の混乱)」の際、ルピアは経済基盤が弱い「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5通貨)」の1つとして急落するなど、新興国不安が高まる場面では必ず売りの対象になる「常連」だ。市場心理の悪化でファンダメンタルにかかわらずルピア売り圧力が続く可能性が高い。
インドネシア当局は通貨安の食い止めに懸命だ。中銀は5月以降4回の利上げを実施し、政策金利を合計1%以上引き上げた。政府は経常赤字削減のため、一部輸入関税の引き上げを決めた。しかし通貨安自体が投資家心理を悪化させる悪循環に陥り、売り圧力を抑えるのは容易ではない。
いったんは為替介入によってルピア安を強引に押しとどめたが、売りの勢いは株式相場に波及。インドネシアの主要株価指数であるジャカルタ総合指数も5日の下げ幅が一時5%に迫った。金融市場で新興国の不安が一段と広がっていくのか。トルコやアルゼンチンに続いてインドネシアの動きからも目が離せなくなってきた。
【日経QUICKニュース(NQN) 村田菜々子】
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