つい3か月ほど前に約27年ぶりの高値を回復したばかりの日経平均株価がスタミナ不足と足腰の弱さを露呈した。
年末の薄商いの中、本来であれば活発に売買する個人マネーも足元では期待しにくい。ソフトバンク(9434)株の下落でリターンをうまく得られず、懐が湿りがちだからだ。
■海外苦戦で期待が剥落
ソフトバンクを筆頭に今年の新規上場(IPO)企業は90社と、リーマン・ショック後で最も多い15年(92社)に次ぐ水準になった。注目を集めた1社が6月のメルカリ(4385)。当時は、人工知能(AI)開発のプリファードネットワークス(東京・千代田)と並ぶ、数少ない「ユニコーン(未上場で時価総額が1000億円以上の新興企業)」と評され、市場から1300億円ものマネーを吸収。投資家の期待を一身に背負っての船出だった。
だが、株価は上場初日に公開価格の2倍となる6000円まで上げ、結局それが上場来高値。半年もの間、右肩下がりのチャートを描き続けた。20日は公開価格を34%も下回る水準まで下げ、上場来安値を更新した。革新的なビジネスモデルと高い成長力を武器に株式市場に乗り込んだものの、いまや「買ったら損をする銘柄」に成り下がった。超目玉企業のIPOだっただけに、投資家心理への悪影響は計り知れない。
■メルカリの株価
なぜ期待がはく落したのか。1つは海外事業の先行き不安だろう。「北米、英国は投資段階だが、19 年 6 月期より大幅増益を予想」。ある大手証券は、上場直後にこんなタイトルのリポートを発行していた。実際は、2017年3月に英国で提供開始したサービスは浸透せず、2年で撤退の憂き目に遭った。
海外展開のもう1つの柱である、14年9月に始めた米国事業はどうか。米国でのアプリのダウンロード数は4000万を超え、認知度は決して低くないといえる。流通総額(GMV)は18年7~9月期(1Q)時点で80億円(当時の為替レートを単純平均すると7200万ドル)。前年同期比で35億円増えており、順調な成長に見える。
だが、巨大な中古品売買市場を抱える米国全体と比べれば、規模はまだまだ小さい。中古衣料サイト運営の米スレッドアップによると、中古品売買シェアの半数を占めるアパレルの市場規模は足元で200億ドル。逆算すると、中古品の売買市場全体では400億ドルほどの計算だ。22年にはアパレルだけで41億ドルまで成長するという。
それだけに参入企業も多く、特にアパレルではスレッドアップ、ポシュマーク、デポップといったライバルがひしめき合う。アパレルに限らなければ、イーベイやフェイスブック、アマゾンなどとも競う。メルカリと似たビジネスを展開している企業は、ほかにも多い。
競合他社がしのぎを削る中、後発組として参入した日本企業がシェアを奪うためには、広告などのコストが当然かさむだろう。UBS証券は「昨今では『黒字化すら難しい』との考えも増えてきている印象。潜在市場規模は巨大と考えるが、米国メルカリ事業が日本事業に迫る規模まで成長する確信は現時点で持てない」と指摘する。
■当たらない目標株価
ならば国内回帰か。国内では「フリマアプリ=メルカリ」との位置付けがほぼ確立し、キャッシュカウとして育っている。フリマアプリ利用者の9割以上がメルカリユーザーだ。圧倒的な市場シェアと中古品市場の拡大を追い風に、国内事業は”当面”は堅調だろう。
とはいえ、油断はできない。2番手にいるのが「ラクマ」を展開する楽天(4755)だからだ。楽天はポイントを軸に巨大な「楽天経済圏」を作り上げてきた。1億人近い会員を抱え、楽天スーパーポイントは利用店舗が幅広い「共通ポイント」に成長。さまざまなシーンで貯められるポイントは、ラクマでの購入にも充てられる。メルカリと比べてラクマは販売手数料も安く、いつ反転攻勢に出ても不思議ではない。
こうした中にあって、メルカリの足元の株価は適正水準なのか。経済産業省によると、17年のフリマアプリ市場規模は4835億円。国内シェア9割を誇るメルカリの18年6月期の連結売上高は、357億円だった。単純計算で1割弱が売り上げにつながっている。
赤字企業のため単純に時価総額と売上高で計算してみる。2889億円の時価総額を357億円の売上高で割ると約8倍だ。同じ情報・通信、サービスなど同じグロース銘柄は平均2.3倍。売上高が1500億円近くなってようやく平均並みだ。逆算すると、フリマアプリの国内規模が遠からず2兆円近くに拡大する、との前提で株価が形成されているとも読み取れる。足元の低迷を受けても、なお株価は過大な期待を織り込んでいるようにも映る。
メルカリの成長性に魅せられたアナリストは上場以来、ほぼ一貫して強気だ。上場来高値近辺を目標株価に置く証券会社も多い。こうした見方がいつか報われるのか。先行きは不透明だが、1点だけ確実に言えることがある。メルカリに限っては、アナリストの目標株価が当たった試しがないということだ。
値動きが軽い小型株のIPOは基本、当選しない。当選しやすく、初心者が株式投資を始めるきっかけにしやすいのは、メルカリやソフトバンクのような大型IPOだ。投資初心者が成功体験を得られないような市場では、投資マネーを呼び込むのは難しい。(松下隆介)
※QUICKエクイティコメントで配信したニュースを再編集した記事です。QUICKエクイティコメントは、国内株を中心に相場動向をリアルタイムでLIVE解説するQUICKのオプションサービスです。