金融イベントを開く施設を備えた高層ビルの建設など日本橋兜町周辺の再開発が徐々に進む中、国際金融都市の実現に向けて力を入れ始めているのが東京都だ。新興運用会社の育成につながる予算を組んだほか、2月5日には新設の「東京金融賞」の表彰をする。夏までにはプロモーション組織の設立を計画する。都が金融機能の強化を意識した構想を掲げたことは過去にもあったが、矢継ぎ早なイベントにはこれまでと異なる「本気度」がうかがえる。
■運用会社育成で新プログラム
政府・東京都は2014年に「東京国際金融センター」構想を打ち出し、16年には同年に着任した小池百合子知事のもと「国際金融都市・東京」構想が動き出した。同構想に基づいた東京都による新興運用会社の育成に向けた取り組みの1つが、運用資金を供給するアセットオーナーのサポートだ。都は「東京版EMP(新興資産運用業者育成プログラム)」という施策を導入し、新興運用会社に分散投資するうえで目利き役となる「ゲートキーパー」の公募を進めてきた。
ゲートキーパーは資金の出し手となるアセットオーナーと、資金を求めている新興運用会社を仲介する存在だ。有望な新興運用会社を発掘するだけでなく、そこに投資してもいいと考えるアセットオーナーを勧誘する役割まで担い、投資案件の成立につなげる。ゲートキーパーには三井住友信託銀行などすでに3社が認定され、早ければ3月までにも最初の投資案件が成立する。
「東京版EMP」に基づいてファンドを運営する事業者(ゲートキーパーとアセットオーナーのセット、またはゲートキーパー単独)には都が諸経費などの半額を補助する仕組みで、まだ実績の乏しい新興運用会社に投資するインセンティブになる。18年度は3億円の予算を付けた。東京都政策企画局の田尻貴裕・戦略事業担当部長は「ここまで都が先頭に立って金融都市化を推進するのは初めてだ」と強調する。
■東京市場の地盤沈下に強い危機感
都が従来になく力を入れるのは、東京市場の地盤沈下に対する危機感の裏返しでもある。都と連携して資産運用業の活性化を目指す国際資産運用センター推進機構(JIAM)の吉松和彦事務局長は「何も手を打たなければ世界のなかで日本市場の魅力が低下して海外からの資金が流入しなくなり、いずれは年金運用も立ち行かなくなる」と東京市場を必死で支えていく覚悟を示す。JIAMは新興運用会社の兜町への誘致を目指し、都が目指す育成の成否は衰退が指摘されて久しい兜町復活のカギを握る。
一方、新興運用会社からは「都が直接、資金を供給してくれた方がブランド力向上の観点などからインパクトが大きい」と都の関与を一段と求める声が出ている。ライバルである同業と至近にオフィスを構えることへの抵抗感から、兜町周辺に拠点を移すことをためらうケースもあり、課題は残る。
今後は新興運用会社の多くが抱える「アセットオーナーともっと接点を持てないか」といった悩みをはじめとして、彼らの声に都などがいっそう真摯に耳を傾けることが重要になる。東京は「運用資金の振り向け先に困っている機関投資家が多く、一方で有望企業も多い」(田尻氏)ため、マーケットの潜在的な成長余地は大きいのは確かだ。
■「都民ニーズ解決」から「ESG」まで
東京を金融の街として印象づける目先のイベントでいえば、都が新設した「東京金融賞」の表彰が2月5日に予定される。都民のニーズに合う金融商品・サービスを提供する金融事業者に贈られる「都民ニーズ解決部門」、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の普及を実践する金融事業者に贈られる「ESG投資部門」からなる。
「都民ニーズ解決部門」は新しいサービスのアイデアを提供するフィンテック系の企業、「ESG投資部門」はESGで先行し日本での知名度アップを狙う外資系企業の応募が多い。フィンテック系や海外勢の活性化は都の目指す将来像とも合致し、東京を象徴するような賞に育てたい考えだ。
■前日銀副総裁に情報発信託す
さらに都は海外金融系企業の誘致を目指し、19年度上期中に新しい官民一体の金融プロモーション組織を一般社団法人として設立する予定だ。
トップに就任すると伝わっているのは前日銀副総裁で大和総研理事長の中曽宏氏。国際的に知名度の高い中曽氏が積極的に情報発信していくことで、海外からの金融関連企業の誘致とマネー呼び込みにつなげ、米ニューヨークのウォール街などと肩を並べる金融街を未来図に描く。
都主導で「金融強化」をイメージさせるイベントが相次ぐ今年。国際金融都市への歩みを実感させる一年になるか、兜町再生に向けた1つの試金石にもなる。
〔日経QUICKニュース(NQN) 内山佑輔〕
※参考記事:兜町REBORN 動き出した「大家」、内外の金融ベンチャー集積(2019/1/18)
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。