日経QUICKニュース(NQN)=池田幹
国内の債券発行市場で、ESG(環境・社会・企業統治)関連の起債が活発だ。環境対策や社会課題の解決などを目指す事業向け資金を調達するための債券の発行額は1~7月期で5880億円。過去最高だった昨年の年間実績(6579億円)の約9割を7カ月で達成した。以前は独立行政法人や金融機関などが目立ったのに対して昨夏以降は事業会社や投資法人による起債が増えるなど、発行体の裾野も広がっている。
国内の発行体が国内外で発行した環境債(グリーンボンド)と社会貢献債(ソーシャルボンド)、サステナビリティ債を対象に、みずほ証券が発行状況をまとめた。外貨建て債の発行額は条件決定日の為替レートで円換算した。
- 国内発行体による1~7月のESG債発行(カッコ内は18年の実績)
発行額 案件数 発行体数
グリーンボンド 3000(4460) 23(30) 21(24)
ソーシャルボンド 1950(1200) 8(6) 4(2)
サステナビリティボンド 930( 918) 9(1) 4(1)
総額 5880(6579) 40(37)
(出所)みずほ証券。件数と発行体数はみずほ証のデータを基に集計。単位億円
小田急は鉄道会社初の環境債
ESG債のうち普及が最も進んでいるのは環境債だ。1~7月期の発行額は3000億円と全体の過半を占める。トヨタファイナンス(5年物で600億円)と東京建物(8804、40年物劣後債で500億円)の比較的規模が大きい2案件が、発行額を底上げした。これらを除くと高砂熱学工業(1969、7年物で50億円)など小ぶりな案件が多いものの、顔ぶれは多彩だ。小田急電鉄(9007、3年物で100億円)が国内鉄道会社として初の環境債を発行したり、環境債を選ぶ投資法人が増えたりするなど、「新顔」も目立った。
環境債以外の1~7月期発行額は、社会貢献債で1950億円、サステナビリティ債で930億円だった。発行体の数は両債それぞれ4だった。アシックス(7936、5年物で200億円)や大林組(1802、5年物で100億円)など、国内企業による円建てサステナビリティ債が初めて登場した。商船三井(9104)は昨年の環境債に続き、今年は初のサステナビリティ債を機関投資家向け(4年物と6年物で計100億円)だけでなく個人投資家向け(6年物で100億円)にも発行し、調達の手段を広げた。
調達資金は、環境債では例えば、トヨタファイナンスで環境負荷の低い電動車向けクレジット資金や販売店向け融資、東京建物でグリーンビルディングの取得や建設などに充てられる。商船三井はサステナビリティ債で確保する資金を、環境負荷の少ない液化天然ガス(LNG)を供給する船舶への投資やフィリピンでの商船大学設立などに使う予定だ。
環境省の補助金が後押しも
ESG債は調達資金の使い道がわかりやすい「テーマ型債券」だ。投資家も発行体も、関係者に投資や起債の意図を説明しやすいという利点がある。債券の出し手・買い手とも、社会的なイメージアップという「宣伝効果を狙ったもの」(国内証券)。活況を背景に「ESG関連の投資で、明確な投資額の目標や基準を持つ投資家が出てきている」(SMBC日興証券の岩谷賢伸シニアクレジットアナリスト)という。
ESG債の中心を占める環境債の起債では、関連の一部費用に補助金が交付されるなど環境省の施策が後押ししている面があるため、今の流れがこのまま続くか懐疑的に見る関係者もいる。
それでも、今後もESG債発行は相次ぐ見通しだ。三井不動産(8801)は5年物の環境債500億円程度を発行する予定。大建工業(7905)は同社初の公募債を環境債(3年物、50億円)として発行する。2019年1年間では「1兆円に達しても違和感はない」(みずほ証券の伊井幸恵サステナブル・ファイナンス室長)との声も出ている。
※関連記事 「ESG投資、環境債の発行額が4倍に 商船三井など個人向けも」2018/12/27配信
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