日米株式相場の緩やかな戻り基調はここへきて一服だが、上げ相場の終焉ととらえるのはまだ早い。依然として強気な投資家が多いためだ。UBSの富裕層部門であるCIOウェルス・マネジメントは「悲惨指数」をもとに、米株式相場の一段の上昇を見込む。過去の経験則によれば、インフレ率と失業率の合計であるこの指数が6.5%を下回ると、株価収益率(PER)が上昇するという。
悲惨指数が下がると株価は上がる
悲惨指数%はグラフ赤(右軸、逆目盛り)、S&P500種株価指数はグラフ緑(左軸)
投資家が許容できるPERの水準が切り上がれば、当然、株価も上がる。「米中貿易問題が長期的な解決に向かうなど事態が予想外に好転した場合には、米国株は10月の高値を抜く可能性も十分にあり得る」(UBSのマーク・ハーフェレ氏)。米株高は日本株にとっても好材料だ。
データを元に指数先物などを売買するCTAやリスク・パリティ・ファンドなどによる米国株シフトの動きも見込める。JPモルガンの4日付リポートによると、こうしたクオンツ勢の株式への配分比率がじわり高まっている。「株価のトレンドが崩れておらず、ボラティリティが低い状況のVIX指数ままであれば、買い持ち高を積み増し続けるだろう」と読む。
米国株のボラティリティ低下は、日本株への選好も強める。SMBC日興証券が2月末に発行したリポートによれば、「恐怖指数」と呼ばれる米VIX指数と日本株のPERの動きは、おおむね一致する。「18年10月の株価急落前の水準まで下がったVIXの動きは、景気先行きの不透明感を織り込んだことを意味する。PERも切り上がりが期待でき、日経平均は2万2600円程度が妥当」(圷正嗣氏)という。
恐怖指数の下落は景気不透明感を織り込んだ
VIX(グラフ赤、右軸)とTOPIXの12カ月先予想PER(グラフ緑、左軸、倍)の推移
アナリストの業績修正の動きを示すQUICKコンセンサスDI(2月末時点)によると、製造業はマイナス51で1月末時点と比べ16ポイント悪化し、11年12月(マイナス59)以来のマイナス幅となった。前月と比べ一段とアナリストの下方修正が相次いだ。前月比で3ポイント改善したとはいえ非製造業もマイナス14と、企業業績の先行きには暗雲が垂れ込める。
業績見通しは弱気の底だが(QUICKコンセンサスDI)
製造業がグラフ緑、非製造業はグラフ赤
ただ、東海東京調査センターの平川昇二氏は、DIが製造業、非製造業とも08年秋のリーマン・ショック後の下限に位置している点に注目。「08~09年のような景気後退局面でないのであれば、いまが収益モメンタムのほぼ底。早晩DIは反転に向かうと予想され、株式相場が上昇する可能性が高い」と指摘する。いいとこ取りにも聞こえるストラテジストたちの論評だが、米中貿易摩擦など、投資家が気を揉んでいたイベントが前向きに進み始めたのは確かだ。(松下隆介)
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