株式トレーディングの世界に低コスト化や電子化の大波が押し寄せている。中国中信集団(CITIC)傘下のCLSA証券(東京・港)の釜井毅生エグゼキューション・サービス統括本部長はQUICKのインタビューで、「これまで以上に電子取引に長けた人材が活躍の場を広げる」などと指摘する一方、電話で顧客と話し注文を受ける従来型のハイタッチ・セールス・トレーダーの存在意義も大きく「決してなくならない」と語った。主な一問一答は以下のとおり。
――トレーディングの先行きに悲観的な声が出ている。
「ここ15年、バイサイドのコスト意識の高まりなどを背景に、コミッションレート(手数料率)は下がり続けている。弊社は現物株のみだが、たとえば株価指数先物は1枚あたり100円ほどまで下がるなど、トレーディングそのものが儲からないビジネスになっていることは確かだ。手数料の引き下げ圧力は今後も強まり続けるだろう。先行きには悲観的にならざるを得ない」
「今後、トレーディングに携わる証券マンは、二極化が進むとみている。低コストで売買を執行できる電子取引などのスキルに長けたトレーダーは、ますます活躍の場を広げるだろう。米国株式市場では、70%以上が電子取引経由とされている。日本でも、こうした流れが一段と強まっていくのではないか。一方、トレーダーとして多くの人がイメージするような(顧客からの注文を電話などで受けて執行する)ハイタッチ・セールス・トレーダーは減っていくだろう」
――ハイタッチ・セールス・トレーダーはもはや不要、ということか。
「そうではない。顧客とのリレーションシップを重視してきた、これまでのようなトレーダーも十分活躍し続けられる。弊社では他社が驚くようなオーダーを受けることが多いが、それはトレーダーが信頼されているからだ。ワンショットあたり百億円を超えるような大規模なブロック・トレードの場合、流動性をしっかり確保しつつ、かつ安心して執行を任せられるトレーダーに発注したい投資家も多い。大きな取引の場合、モノをいうのはリレーションシップだ」
「加えて、海外投資家に人気の高い中小型株は、流動性の低さなどもあってアルゴリズムによる売買ストラテジーをいまだに組めていないのが現状だ。こうした銘柄への注文をしっかりさばいてくれるトレーダーは必要だ。それだけでなく、顧客と直に接することで、さまざまなバリューアップのアイデアを提供できる。複数の市場をにらみながら的確な判断を下す必要がある投資家にとって、安心してトレードできるパートナーは必要だ。これは、電子取引にはマネできない」
――CLSA証券の強みは。
「CLSAはグローバルで140人のアナリストを抱えている。MiFID2(欧州連合の金融規制=投資家は証券会社に支払う売買手数料とリサーチへの対価の分離などが求められる)の影響でアナリストが減少する中でも、強化し続けている。日本は16人のアナリストが在籍しており、外資系証券の中でもリサーチプロダクトにかなり力を入れているほうだろう」
「こうした努力もあり、企業や投資家との結びつきは極めて強固になっている。日本を含め、グローバルで開催する年6回のフォーラムには投資家、事業会社含めのべ5000人以上が出席している。5月に開催した『CLSAジャパンフォーラム』には世界20カ国から機関投資家420人、170の事業会社から530人が参加し、会場は大いに盛り上がった。弊社は、ハイタッチのトレーディング業務で顧客から受け取る売買手数料の多さでみれば日本市場で上位に入るが、投資家や事業会社との強い結びつきがあるからこそだ」
――CLSA証券は、今ひとつ日本での知名度が低い。今後、日本市場をどう開拓していくか。
「CLSA証券の顧客には海外拠点の日本人ファンドマネジャーなどもいるが、純粋な日本の運用会社はほとんどいない。今後は和製ヘッジファンドの顧客を開拓していきたい。豊富なバジェットを持つ彼らに対し、我々は流動性やリサーチ、よりトレーディングニーズに合致したアルゴリズムなど、さまざまなサービスを提供できるだろう」
「親会社であるCITICの強みを活かした商品も提供していきたい。いま中国は世界の中でも極めて高い成長力を持つ国だ。中国のエクスポージャーを高めたい機関投資家向けに、中国関連の債券やエクイティデリバティブ、中国企業へのアクセスなどさまざまなサービスを提案できるはずだ」(松下隆介)
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