外国為替市場でコンピューター経由の「アルゴリズム取引」を手掛ける投機筋の一部がトルコリラ売りに加わっている。リラの売り手は前週半ばまでドイツ経済への懸念からユーロ売りに傾いていたグループのようだ。市場規模の小さいリラはアルゴのようなまとまった規模の注文が出ると値が振れてしまう。12日の急落に続いて13日もするすると値を下げ、対円は一時1リラ=15円台後半と過去最安値を更新。6日高値の21円台後半からの下落幅は6円を超えた。
機械的なリラ売りが目に見えて増えたのは日本時間の10日午後、英フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版が「欧州の金融監督当局がトルコへの与信額が多い銀行のエクスポージャー(リスクの割合)を懸念している」などと伝えて以降だ。アルゴ系の投資家は「欧州当局」、「欧州の金融機関」、「懸念」といった言葉にまずユーロ売りで応じ、次にリラを売ったと考えられる。リラの暴落はFT紙報道やユーロ安に少し遅れて始まった。
トルコリラにはコンピューター・プログラムに適したわかりやすい売り材料がそろっている。米牧師問題を巡る対米関係の悪化、米国の対イラン制裁がイランに近いトルコの政治や経済に影を落とす可能性に加え、エルドアン大統領が中央銀行に利上げをしないよう圧力をかけ続ける構図は変わっていない。トルコ製品の関税引き上げを求めた10日のトランプ大統領の発言や、米国との対決姿勢を鮮明にしたエルドアン氏の12日の演説に対するリラ売りでの反応が強くなったのは、アルゴリズムの影響だろう。
エルドアン大統領は12日の演説で「ドル買いを急ぐな」とも訴えた。市場では「トルコ政府は外貨預金の強制封鎖や国民が有する外貨を強制的にリラに換えさせる政策を準備しているのではないか」との警戒感がくすぶる。資本規制は短期的にはリラ安阻止に効果を発揮するが、トルコに出入りするモノやお金の流れを滞らせかねない。生活必需品の輸入が多く、財政赤字の穴埋めを海外に頼りがちなトルコにはむしろマイナスだ。
トルコの銀行規制当局は日本時間の13日早朝、「トルコの市中銀行は外貨とリラの為替スワップ取引の総額が株主資本の5割を超えてはならない」との趣旨の規制強化措置を示した。これにより投機筋がリラを売り持ちにすると、為替スワップを通じたリラの資金調達が難しくなるためリラは安値圏からやや戻した。トルコのアルバイラク財務相は預金封鎖の可能性を否定していて、当面はスワップ規制の強化で乗り切りたい構えだ。
それでもトルコ全体の資本規制に対する市場の疑心暗鬼は解けていない。アルゴ系トレーダーのリラ売りプログラムもしばらくは作動し続けそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】
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