激化する貿易戦争の当事国である米国と中国、メキシコとの間で、国の信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の明暗が分かれている。摩擦が経済に悪影響を及ぼすとの懸念から、中国やメキシコは国債のCDS保証料率が上昇している。一方で米国は低位で安定しており、CDSからみた信用力では戦いを仕掛ける側の米国の一人勝ちとなっている。
CDSは国や企業などの貸し倒れリスクを取引する金融派生商品(デリバティブ)。買い手は債権の元本の一定割合にあたる保証料を支払えば、債務不履行(デフォルト)が発生した際の損失分の保証を受けられる。このため国債の保証料率の上昇は、その国の景気や財政悪化への警戒感の高まりを示すとされる。
QUICKによると、中国の5年物国債の保証料率(気配値ベース)は3日に0.6%まで上昇し、およそ5カ月ぶりの高さとなった。トランプ米大統領は5月5日に中国製品への追加関税引き上げの方針を表明した。貿易戦争が激しくなるにつれて、中国の保証料率は上昇傾向を強めている。
トランプ米政権が10日からすべての製品に5%の関税を課す方針を示しているメキシコも上昇している。「輸出減速で景気が悪化し、財政支出が膨らむとの連想が働いている」(国内証券のエコノミスト)という。米国が貿易戦争を仕掛ける相手国の保証料率の上昇を促しやすくなっている。
三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは「貿易戦争が現実的に世界経済の減速を招くとの見方が大勢になれば、米国の保証料率も上昇してくる」と予想する。仮に米景気が大幅に落ち込めば、財政拡大の観測が浮上するとみられるからだ。
ニューヨーク原油先物相場はすでに高値から2割超下げ、「弱気相場」入りしている。運用リスク回避の動きは着実に広がっている。だが、米株式市場では、米連邦準備理事会(FRB)が利下げに動くとの見方からダウ工業株30種平均は反発の兆しが出ている。金融緩和が貿易戦争による悪影響を吸収するとの見方は株価の支えになっている。
CDSはリスクに敏感なため「炭鉱のカナリア」とも呼ばれている。米国債の保証料率の安定は、金融・資本市場全般がまだ悲観一色に染まっていない現れといえそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN ) 矢内純一】
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。