米中摩擦に中東情勢の緊張など目先の不透明材料に目を奪われがちだが、相場が動かないなら少し引いてロングビューに視線を送ってもいいかもしれない。よくもわるくも様々な要因の中心に位置するのは米国だ。その米国の将来像を考えるにあたって、モルガン・スタンレーが最近公表した「Y+Z世代は米国経済にどのような影響を及ぼすのか」が参考になる。
Y世代とは1980年代から2000年前後に生まれた「ミレニアル世代」とも言われる。文化論的な分析はひとまず脇に置き、人口動態の角度では19年には7300万人に達したといわれる。また「ジェネレーションZ」は1990年代後半以降に生まれた世代を指す。全米人口のほぼ20%を占め34年には国内で人口が最も多い世代層となり、最終的に7800万人でピークを打つという。
■ベビーブーマーに匹敵するボリューム
モルガンが改めてこの世代に注目したのは様々な長期試算が若年層世代を正確に反映していないと考えたためだ。第二次世界大戦後の米経済はベビーブーマー世代がけん引してきたが、いよいよ「引退」が視野に入ってきた。米国の「衰え」を指摘する材料の1つと言えるが、Y+Zで考えればベビーブーマーに匹敵する存在になるという。
レポートではY+Z世代が市場に与える長期的な影響は以下が想定されるとしている。
- 米ドル:相対的な人口動態トレンドは中期的に米ドルにとって逆風となるが、2024年以降は追い風となり、長期的には強気材料となる。
- 米国株式:GDP成長と労働生産性への潜在的影響は、世界の他の国々の株式に比べ米国株式にはプラスと考えられる。Y+Z世代による経済成長の追い風により、弊社は長期的な強気見通しに対する確信を強めている。
- 米国金利:米国労働力の伸び率が向こう数十年間高まることで、その他の条件が同じと仮定すれば、米国実質金利へのさらなる下方圧力は防げることになり、米国金利が日本の金利軌道に倣って低下するとは考えにくい。
■2027年に人口減に転じるとの試算
1つの結論としては「米は日本化しない」ということになる。この日本化を恐れているのが、貿易戦争の相手国である中国。2010年代半ばに生産人口がピークに達し、既に減少基調へと転じた。一人っ子政策が影響しているというのが大勢の見方だ。中国政府は同政策を廃止しているものの、出生数が劇的に増加へ転じたといった話は伝わっていない。政府系シンクタンクの最新の試算では2027年にも人口そのものが減少に転じるとしている。
人口減は中長期的に経済力の低下につながることは明らか。政策当局としては1人あたりの生産性の向上も重要政策に組み込まざるを得ない。この文脈で中国政府が掲げる「中国製造2025」を確認すると、10大重点産業の1つにロボット産業を組み込んだ意味も見えてくる。中国製造2025は米国に食って掛かるような政策だが、人口減をロボットで補うという守りの要素もあるのだ。
米中が争う覇権はやはり数十年先までの方向性を左右すると言える。人口動態の側面でも分があるあるのはやはり米国と言えそう。このあたりも株式を保有するなら米国株、といったインセンティブにつながっているのかもしれない。(岩切清司)
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