「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」ーー。日経QUICKニュース社(NQN)設立25周年の特別インタビュー企画で、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所長は、50~60年程度を周期とした景気循環の波である「コンドラチェフ・サイクル」をもとに世界秩序の指導的立場も周期的に移り変わると解説。こんな予測を披露した。「米国1強体制から覇権が移るのは間違いないが、それは中国ではない」
井口耕佑
【3つのポイント】①中国は2030年にGDPで米国を上回るが、その後失速②次の覇権国はインドが有力。50年に経済規模で世界首位に③日米が「共同覇権」の可能性も。対等な同盟関係が必要 |
軍事拡大を急ぐあまり経済がないがしろに
――米中の対立は通商問題から両国の覇権争いとして先鋭化しつつあります。どちらに軍配が上がるでしょうか。
「中国は2019年10~12月期の実質国内総生産(GDP)の成長率が6%にまで鈍化し、直近20年1~3月期は新型コロナウイルスの影響でさらに弱含むとみる。それでも2%台の米国に比べると相当高い。相対的な成長率の高さはしばらく続く見込みで、30年にはGDPで米国を上回り世界首位となるだろう」
「ただ、それはあくまで一時的だ。社会インフラの投資周期をもとにした景気の趨勢を示すコンドラチェフ・サイクルによると、中国は11年から47年まで下降局面にある。さらに重要なのは『一人っ子政策』の副作用で30年以降は人口減少に転じることだ。米国は今後も移民の流入で高い出生率を維持するとみられ、40年にはGDPで中国を再逆転する」
――25年後も米中のせめぎ合いが続くということでしょうか。
「米国も34年にはコンドラチェフ・サイクル上のピークを迎え、その後は徐々に勢いが衰える。そこで中国が取って代わるかというと、そうともいえない。過去をみても、ポルトガルに対するスペインや、英国に対するフランスやドイツなど、対抗馬である『挑戦国』が覇権国に取って代わった例はない。覇権国に対抗して軍事拡大を急ぐあまり、経済がないがしろになるためだ。今の中国がその典型で、GDPで一時的に首位に立っても覇権国にはなれない」
戦後30年で世界2位の経済大国になった日本が先例
――その後頭角を現すのはどの国ですか。
「インドが最有力だとみている。コンドラチェフ・サイクルは32年に底入れして、59年まで上昇が続く。中国と異なり人口増加が続くうえに、年齢構成も相対的に若い。50年にはインドがGDPで米中を上回るだろう。今はカースト制度の名残や性差別、不十分な衛生環境など文化的に未成熟な面が投資をためらわせている。だが日本が戦後の焦土から30年で世界第2位の経済大国に上り詰めたことを考えれば、インドにも十分可能性がある」
――英国の欧州連合(EU)離脱、国連の指導力低下と、戦後の世界秩序が崩れつつあります。日本は今後国際社会でどのような役割を果たせばよいのでしょうか。
「日本が主導した環太平洋経済連携協定(TPP)11は今後の日本の立ち位置を考える上で良い例だ。米国の離脱後もリーダーシップを持って妥結にこぎ着けた。今後も米国の合流を求め続けるだろう。中東政策では米国と距離を置き独自路線を模索するなど、米国に追随するような外交姿勢が変わりつつある」
「海軍力の強さが世界の覇権に結びついていたころは、英国や米国など海に面した大国が一国で世界を支配することができた。だが艦船の数が物を言った時代は、航空兵力が主導権を握ったミッドウェー海戦(1942年)で終わった。その後核兵器が登場し、さらに今は戦場が宇宙やサイバー空間に移っている。こうなると一国で優位性を保つのは難しい」
米だけが「世界の警察」であり続けられない
――これまでのような1強体制ではなく、複数国家が覇権を握ることもあり得るということでしょうか。
「覇権サイクルを研究した米政治学者ジョージ・モデルスキーは、80年代にすでに『共同覇権』(パックス・コンソルティス)の台頭を示唆していた。念頭にあったのは日米同盟だろう。米国のGDPは50年にはインドに抜かれるが、日・米で合算すれば依然首位に立っている」
「とはいえ、日本が米国の51番目の州になるような展開は考えていない。米国だけが『世界の警察』で居続けていては疲弊する。日本は今後、政治経済、防衛でより対等な同盟関係を築く必要がある。そうすれば日米両国が『G2体制』として世界秩序でリーダーシップを発揮できるかもしれない」
嶋中雄二(しまなか・ゆうじ)氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券参与・景気循環研究所長、景気循環学会副会長。1978年三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。日本経済研究センター、三菱UFJリサーチ&コンサルティング投資調査部長などを経て、10年から現職。近著に「2050年の経済覇権 コンドラチェフ・サイクルで読み解く大国の興亡」(日本経済新聞出版社)
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