英国の欧州連合(EU)離脱が一段と混迷を深めている。外国為替市場では、予定されている離脱期限の3月29日までに手続きが進まず、経済に深刻な影響が出る「合意なし離脱」をひとまず回避するために英政府が離脱期限の延期を求める、との見方が多い。回避できなければ市場のリスクオフムードが強まり、急激な円高やポンド売り、世界的な株安も懸念される。
QUICKと日経ヴェリタスが共同で15~16日に調査を実施し、金融機関や事業会社の外為担当者88人が回答した。ちょうど英議会が政府のEU離脱協定案を大差で否決した節目の局面にあたる。
翌日の内閣不信任案の否決で一息ついたメイ英首相は、21日までに代替案を示す。しかし国民投票の再実施を主張する意見もあるなど、議会の合意を取り付けるのは至難の業。EUとの再協議にこぎ着けたとしても代替案が認められるとは限らず、当初の離脱期限までに事態を決着させるのは極めて難しい状態だ。
調査でも、何とか対応策を探るため「離脱期限の延期」にすがるとみる回答が50%と最も多くなった。次に多いのが、最後まで議論がまとまらず「合意なし離脱」に至るという最悪のシナリオの予想(22%)だ。
15日の離脱協定案否決はある程度、予想されていたため金融市場の波乱はほとんどなかったが、仮に「合意なし」が現実になればリスクオフムードの高まりは避けられない。
ポンドは現在1ポンド=1.28ドル前後。16年6月にEU離脱を決めた後、その年の10月に安値の1.15ドル台をつけた。「合意なし」になってしまった場合、再びポンド売りが膨らむのは必至で「その安値近辺まで下落する」(47%)、「その安値をさらに下回る」(36%)との見立てが多い。
ポンド売りの一方で、最も買われる通貨はどこかを聞いた設問では、日本円を挙げた回答者の割合が61%と断トツだった。
マネースクエアの西田明弘チーフエコノミストは「リスクオフが強まり、安全資産の円が独歩高になる可能性もある。EU離脱決定直後のように1ドル=100円を超える場面もあるかもしれない」と話す。
「ブレグジット・ショック」に見舞われた当時の外為市場では、それまで対ドルで104円前後だった円が一気に99円台に上昇。パニック的な円買いが見られ、対ポンドでも157円台から133円台へと急騰した。
「合意なし離脱は現段階であまり織り込まれていないうえ、米中対立の激化といったリスクイベントに比べて影響は限定的」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミスト)との冷静な見方もある。
調査で、世界の株価への影響度合いを聞いたところ、「5%未満の下落」が42%、「5~10%の下落」が25%、「10%を超える下落」が5%だった。
(QUICKナレッジ開発本部 永島奏子)
※QUICKでは株式や債券、外為部門などの市場関係者を対象に毎月、足元の景気や相場動向についてアンケートを実施。結果を「QUICK月次調査」として各部門ごとに公表しています。ヒストリカルデータも含めて、QUICKの情報端末からダウンロードできます。