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ESGを読み解く ~総合重機大手にみる環境面の取り組み

Ⅰ. 当研究所が企業のESGへの取り組みを分析

証券投資においてESG(※1)の観点を取り入れる動きが広がっている。ESGの概念が幅広く普及した背景には、先進国を中心に高齢化、経済成長率の低下などが進行するなか、これまでの経済活動がもたらした気候変動や格差の拡大などへの反省があると考えられる。それらのリスク要因に対応しつつ、「持続的な成長の可能性」が追求されるようになったといえよう。
 国内主要上場企業がESGを意識しつつ、持続的な成長を図ることは、「長期的に企業価値を高める」ことにつながると企業価値研究所でも考えている。具体的には、(1)長期的な観点からフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を最大化する、(2)気候変動などに対処することで、長期的な経営リスクを低減する、などの企業行動と言えよう。
内外の主要機関投資家および主要上場企業が、ESGを意識した投資、経営に注力しつつある動きに対応して、当研究所では随時ESGに関する分析を提供していく。今回は「総合重機」各社の環境面の取り組みを分析・紹介することとしたい。
(※1)環境=Environment=、社会=Social=、企業統治=Governance=のそれぞれの頭文字を取った略語(図1参照)。

(堀内敏成)

II. 総合重機大手にみる環境面の取り組み

今年9月23日に開催された国連気候行動サミットが各種メディアで大きく取り上げられた。また近年ではエネルギー関連プロジェクトの資金調達において環境面が制約要因となるケースがみられるなど、ESG関連において特にE(環境)に関する注目度が高まっている。こうしたなか、特に化石燃料を利用する発電プラントなどを手掛ける総合重機大手に対して、中長期的な事業の継続性に関して厳しい見方になる可能性が考えられる。そこで、総合重機大手4社の環境面への取り組みをみていくことにする。

1.脱CO2に向けた製品戦略
 環境面では、温室効果ガスであるCO2(炭酸ガス)の排出量削減が課題となっている。新興国の経済活動の活発化などにより電力需要は拡大傾向にあるが、地球温暖化への懸念から石炭火力には逆風となっている。図2は三菱重(7011)のパワーセグメントの業績の推移をみたもの。大型の発電プラントを手掛ける三菱重では近年石炭火力プラントの受注環境が厳しくなり、受注高が売上高を下回る状態が続いている。ただ、石炭よりも比較的CO2の排出が少ないガスタービンの受注が18年度に増加に転じた(図3)。主力電源としての需要のほか、再生可能エネルギーの補助的なニーズも取り込んでいるようだ。太陽光発電など供給が不安定な再生可能エネルギーを利用する上で調整弁となるエネルギー源は必要不可欠なため(電気を貯蔵する二次電池は現時点ではコスト面で割高)。今後は石炭火力プラントの落ち込みをガスタービンがカバーしていくものと考えられる。他の企業では、住友重(6302)が環境・プラントセグメントにおいてバイオマス発電に用いられるCFB(循環流動層)ボイラを手掛けている。海外事業買収などもあり、同事業の規模は拡大傾向にある(図4)。今後も企業の自家発電 や比較的小規模な地域向け発電設備としての需要を獲得し、成長トレンドが続きそうだ。


 また、川重(7012)は自家発電や地域向け発電用に天然ガスを利用するガスタービン・ガスエンジンを手掛けており、堅調に推移している。中長期的な視点では、発電時にCO2を排出しない水素ガスのビジネスに積極的に取り組んでいる。川重は水素ガスの液化技術で先行しており、20年度には水素エネルギー利用の実証試験を完了する計画。なお水素ビジネスでは、三菱重、IHI(7013)が水素からアンモニアを生成し、利用する構想を進めている。脱CO2社会実現において水素は重要な技術と考えられていることから、これらの技術開発状況を注視したい。

2.事業活動におけるCO2削減の進捗状況
 製品面だけでなく、自社の事業活動におけるCO2排出量削減も注目すべきポイント。図6は総合重機大手4社の統合報告書に記載されているCO2排出量をグラフ化したもの。三菱重の大幅な削減が目立つが、これは単独ベースのものであり、分社化などによる減少も含んでいる。このような事業形態の変化のほか、製品需要拡大により事業活動が活発化した場合には省エネなどの努力を進めている場合でもCO2排出量が増加する可能性があることについても留意する必要がある。ちなみに住友重では、CO2排出量1トン当たりの売上高を示すエネルギー生産性を開示しており、同数値は17年度、18年度と改善している(図7)。IHIは売上高1億円当たりのCO2排出であるCO2排出量原単位、売上高百億円当たりで消費するエネルギー量であるエネルギー消費量原単位を開示している。CO2排出量原単位は売上計上の期ずれの影響などもあり若干悪化したが、エネルギー消費量原単位ベースでは改善した(図8)。

これまでみてきたような製品戦略、事業活動におけるCO2排出量削減への取り組みなどを中心 に、様々なファクターが各種ESG評価機関や機関投資家などから評価を受けている。今後、ESG投資への注目度が高まるにつれ、各社の環境面の取り組みが株価にも影響を及ぼす可能性がある。ただし、現時点では非財務情報の開示方法は財務情報のように開示フォーマットの統一化が図られておらず、会社側の開示方針に委ねられているのが現状だ。ちなみに、IHIは表2にみられるようにCO2排出量、エネルギー消費量などの総量だけでなく原単位も開示。また機関投資家を代表する国際NGOが評価するCDP気候変動の評価も明らかにしている。こうした非財務情報の開示方針や開示項目の充実度などが評価に影響を及ぼす可能性が有り得る。特に実質ベースのCO2排出量削減の進捗状況などを評価する上で原単位の開示は重要だ。今後の各社における非財務情報の開示内容充実に期待したい。

(谷林正行)

III. ESGを巡る動向

1.国連の責任投資原則(PRI)策定がESGへの関心を高める契機に
 ESGが特に注目されるに至った直接的な契機としては、国際連合(国連)が06年4月に「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)(表3参照)を策定・公表したことが挙げられる。PRIは原則を示しただけでなく、この原則に賛同する機関投資家に対し、署名をすることで、「ESGを意識した投資を実行する」という誓約を求めた。これに伴い、欧米の機関投資家が相次いで署名を実行。08年のリーマンショック後に、金融資本市場で短期的な利益追求に対する批判が高まったことも、こうした動きを加速させた。

2.日本国内ではGPIFがPRIに署名し、ESGの要素を考慮した投資を実行
 日本国内でも、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が15年9月、PRIに署名することを公表。多くの国内の機関投資家、運用会社がこれに追随した。GPIFは17年、運用に際して「ESG指数」を採用することを公表。さらに、17年10月には投資運用原則を改正し、全ての資産でESGの要素を考慮した投資を実行するとした。これにより、ESG投資への関心が主要上場企業に本格的に広がることと なった。安倍政権における「アベノミクス」の下、株式市場改革、企業統治(コーポレートガバナンス)改革が進行したことも、国内におけるESGの普及を後押ししたと言えよう。

3.国連が「SDGs」(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を採択
 一方、国連は15年9月、「SDGs」(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を、その時点の加盟国193カ国すべてが合意して採択した。これは、2030年までに貧困撲滅や格差の是正、気候変動対策など国際社会に共通する17の目標が達成されることを目指したものである(図9参照)。SDGsは、これらの課題解決の主体として民間企業を位置づけたことに特徴がある。このため、国内主要上場企業の間でも、SDGsが設定する目標を経営戦略に取り込み、事業機会として生かす動きが拡大している。「アニュアルレポート」等の財務報告書だけでなく、財務情報とESG情報などの非財務情報を統合して報告する「統合報告書」の発行が増加していることは、国内主要上場企業の経営意識の変化と捉えることが出来よう。

4.ESG投資とSDGsの関係について
 GPIFはESG投資とSDGsの関係について、「SDGsに賛同する企業が17の項目のうち、自社にふさわしいものを事業活動として取り込むことで、企業と社会の「共通価値の創造」(CSV=Creating Shared Value)が生まれる。その取り組みによって企業価値が持続的に向上すれば、GPIFにとっては長期的な投資リターンの拡大につながる。GPIFによるESG投資と、投資先企業のSDGsへの取り組みは、表裏の関係にある」としている(図10参照)。

(堀内敏成)

(提供:QUICK企業価値研究所)
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