NQN香港=安部健太郎
20日に中国への返還20周年を迎えるマカオが景気後退に直面している。7~9月期の実質域内総生産(GDP)は前年同期比4.5%減と、減少率は反政府デモで揺れる香港(2.9%減)を上回り、3四半期連続のマイナスとなった。カジノや観光の収入が米中貿易摩擦のあおりで低迷。香港情勢も追い打ちをかけた。19年のみならず20年もマイナス成長が続くとの見方が有力で、中国本土とカジノに依存した経済のもろさをあらためて露呈している。
VIP客からの収入が低迷
1999年12月にポルトガルから中国に返還されたマカオは香港と同様、中国の特別行政区で「一国二制度」が適用されている。人口は68万人弱(9月末時点)で、通貨は人民元ではなくパタカ。世界有数の規模のカジノや、聖ポール天主堂跡などの世界遺産を訪れる観光客が地域経済を支える。
空路のほか、陸続きの中国本土や60キロメートル余り離れた香港からも高速船や海上橋経由で観光客が訪れ、1~10月累計ではマカオへの訪問客数は前年同期比15.3%増の3341万人と増勢を保っている。隣接する中国・広東省などからの日帰り客が28%増えた半面、消費額の比較的大きい宿泊客は3.9%増にとどまる。
カジノ収入は、今年に入り頭打ちだ。週末ともなれば、各カジノはサイコロゲームの「大小」やカードゲームの「バカラ」などに興じる一般客と、それを取り囲んで「観戦」する人たちの熱気にあふれているのが常で、18年はカジノ収入が前年比で14%増えた。だが今年は11月までの累計で前年同期と比べ2.4%減少。一般客は底堅いものの、米中摩擦による先行き不透明感が影響し、賭け金の大きいVIP客からの収入が低迷している。
デモで香港経由の訪問客も減少
11月のカジノ収入は前年同月比8.5%減と、今年最大の落ち込みだった8月(8.6%減)に次ぐ減少率となるなど、夏以降の不振が目立つ。米ジェフリーズのアナリスト、アンドリュー・リー氏は、香港の反政府デモの長期化で「海外から香港への出張取りやめなどで、香港経由でのマカオ訪問客に影響が出ている」と指摘し、12月も厳しい状況が続くとみる。
マカオ訪問客の財布の紐(ひも)は締まっている。マカオ政府統計局によると、訪問客の7~9月期の支出(カジノを除く)は前年同期比で17.2%減った。7~9月期GDPも「VIP客からの収入が急減し、ゲーム(カジノ)サービスの輸出が4.2%減少」(統計局)するなど、観光客の域内支出を含むサービスの輸出が全体で4.7%減ったことが響いた。
式典の厳重警備で客足さらに遠のく?
マカオ経済は中国本土客の羽振りの良しあしに左右される。中国で唯一カジノが合法な地域で、中国本土の富裕マネーに支えられてきたが、中国でぜいたく禁止政策が強まった14年のGDPは前年比で1.2%減。「人民元ショック」の影響で中国本土の株式相場が急落した15年は21.6%減で、16年も0.9%減のマイナス成長だった。国際通貨基金(IMF)は10月時点で、19年のマカオのGDPは1.3%減、20年は1.1%減を予想していたが、ともに下方修正される可能性が高い。
20日の返還20周年の式典には中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が出席するとみられており、マカオメディアによると、習氏は18~20日に現地に滞在するとの観測が出ている。中国本土からマカオへの旅行者は11月22日から12月20日までは1回しか渡航できないよう、すでにビザの発給制限が始まったとも伝わる。厳重な警備体制となるため、「とりわけVIP客などのカジノ客が短期的にマカオ訪問を避ける見通し」(クレディ・スイス)。年の瀬の式典はマカオ経済にとって弱り目にたたり目となりそうだ。
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