QUICKコメントチーム=松下隆介
証券会社のストラテジストの多くが2020年の日本株式市場を強気に見通す中、慎重姿勢を維持する海外の有力リサーチ会社がある。カナダのBCAリサーチだ。推奨アロケーションでは、MSCI指数を元につくったベンチマークに対し、日本株への配分割合を0.3%にとどめるよう指南している。ベンチマークでは9%を強を占めるため、大幅なアンダーウエートだ。
ここまで極端に日本株を避けるようアドバイスしている理由は何か。チーフストラテジストのゲーリー・エヴァンス氏=写真=はこのほどQUICKのインタビューに応じ、「前向きな評価に転じるには消費増税後の消費が安定的に持ち直すと期待できるサインが必要」などと語った。エヴァンス氏は英国の大学で日本語を学び、京都大にも通った知日派だ。主な一問一答は以下の通り。
大幅アンダーウェート推奨
――なぜ、ここまで極端なアンダーウエートなのか。
「日本は世界景気の持ち直しなど、循環的な景気回復の恩恵を受けるだろう。だが、10月の小売販売額が前年同月や前月と比べて大きく落ち込むなど、消費増税は消費に大きな影響を与えている。前向きな評価に転じるためには、個人消費の持ち直しや安定的に推移するサインが必要だ」
「外資規制を強化する改正外為法にも、懸念を抱いている。海外勢が上場株式を取得する際の事前届け出が必要な水準を10%から1%に引き下げるとの内容で、安全保障に関わる日本企業としているが、対象は幅広いセクターに及ぶ。いまは、こうした懸念がある日本株よりは日本と同様に景気回復の恩恵を受ける地域として、ユーロ圏や新興国、英国の株式を選好したい」
――政府は大規模な経済対策を打ち出した。
「日本経済への影響は限定的だ。確かに、経済対策によって消費増税によるフィスカル・ドラッグ(増税などが需要を吸収し、経済成長を抑制してしまうこと)はある程度相殺される。だが、全体の規模はかなり小さい。心にとどめておいてほしいのは、ユーロ圏や米国、英国など、20年に財政政策の恩恵を受けるであろう国や地域が日本だけでないことだ」
米中、構造的な合意は難しく
――米中貿易交渉の進展期待が日本の株価を押し上げるとの見方も多い。
「米中交渉は、12月15日に予定されている関税引き上げの延期や中止を含め、今後数日間で停戦が発表されると予想している。トランプ米大統領が再選を目指す20年に米国経済がリセッション入りすることを望んでいないからだ。しかし、中国はテック企業への補助金や知的財産権、人民元などの基本的な問題で譲歩することを嫌がっている。構造的な合意は見込めないだろう」
――顧客である投資家は日本の株式市場をどうみているのか。
「多くの投資家は日本株をポジティブにみている。彼らは割高なバリュエーションにある米国株の代替投資先を探しているが、一般的に、構造的な問題を抱える欧州や新興国はあまり好まない。コーポレート・ガバナンス(企業統治)の改善についても、弊社よりもポジティブな見方をしている」
Garry Evans氏 カナダのモントリオールに本社を置くBCAリサーチのチーフストラテジストで、グローバル・アセット・アロケーションや新興国株ストラテジーを担当。2015年の入社前はHSBCで株式ストラテジーのグローバルヘッドを務めた。1998~2003年はHSBC証券で日本担当ストラテジスト。ケンブリッジ大学でアジア学の修士号を取得し、京都大学では経済学を学んだ
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