QUICKコメントチーム=岩切清司
ESG(E=環境、S=社会、G=ガバナンス)投資や国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の認知度が2019年後半に加速度的に高まり、巨額の投資マネーが様々な形でESGを取り込み始めた。働き方の改革を生産性の向上につなげるスマートワークもその一つ。ただ投資を判断する際の材料や統計情報はまだまだ乏しく、日本ではポピュラーな投資指標はない。今回、QUICKは日本経済新聞社が11月に公表した「日経スマートワーク(SW)経営調査」をもとに、上位企業などの株価分析を試みた。
スマートワーク経営調査の結果はネット上でも公開されている。今年で3回目となる調査の有効回答社数は上場・非上場あわせて708社。個社ごとに評価され偏差値が付与される。その偏差値をレンジで切り分けし「★」の数で階級ごとに分ける。総合評価で最高水準(偏差値70以上=★5つ)は23社あった。
まず、この23社をバスケット化して東証株価指数(TOPIX)と3年前を基準に比較したのが最初のチャートだ。五つ星バスケットは赤い線で、良好なパフォーマンスが一目瞭然。2年前と1年前を基準にしても傾向は変わらない。
次に偏差値のレンジ別(★の数ごと)にバスケット化したチャートでみてみる。
こちらは2年前を基準にした。もっともパフォーマンスが良いエンジ色は「★1つ」のバスケット。その後には★5つ、★4つなどと続きそれなりに順位がきれいに並ぶが、ノイズが入りやすいのも確かだ。1年前を基準にすると★2.5のバスケットが最良となる。五つ星企業だからといって株価パフォーマンスもトップというわけではない。
★の個数を相対比較すると、株価が何を織り込んでいるのか判別しにくい。ただ、調査そのものは3回目で連続性があるので、今度は総合評価の偏差値の変化を切り口にしてみた。
2年連続で評価が改善した企業と悪化した企業はそれぞれ9社ずつだった。
ESGレーティングはMSCI
改善と悪化をバスケット化したのが下のチャートだ。
連続した期間である2年前を基準にしたが、改善(グラフ赤)が悪化(グラフ緑)を大きく上回っている。マーケットはスマートワークな銘柄がお好きと言えそうだ。これは財務データでも裏付けられる。改善企業のROEの中央値は11.1%で、悪化企業の9.7%を上回る。押しなべてROEが高いのも改善企業の特徴なのだろう。働き方を改善することと資本効率の向上は、正の相関性がありそうだ。
また改善・悪化の企業にMSCIが付与しているESGレーティングを重ねてみると、改善した企業のレーティングの方が悪化企業よりやや良好なのがわかる。働き方に対する意識を強めている企業はおのずと、環境やガバナンスに対しても高めの評価を受けやすい傾向にあるのかもしれない。
「働き方」を数値化・見える化するのは容易ではない。だから非財務情報なわけだが、今回のような調査をもとに株価を分析するとアプローチの仕方次第で興味深いマネーの流れが見えてくる。中長期スタンスで株式投資するうえで「働き方」が無視できないテーマに浮上してきているのは間違いないだろう。
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