日経QUICKニュース社(NQN)は設立25周年を記念して特別インタビュー企画を実施している。テーマは「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」ーー。小泉純一郎政権の閣僚として構造改革の司令塔を担った東洋大教授の竹中平蔵氏は、米国の株主資本主義と中国の国家資本主義の間で揺れ動く世界で「日本は自由貿易やグローバリゼーションといった自由な世界秩序の守り手となるべきだ」と主張する。
聞き手は大貫瞬治
【3つのポイント】①米国の株主資本主義と中国の国家資本主義の対立は簡単に終わらない②「政策後進国」の日本は「課題先進国」へと挑戦する25年に③市場原理も政府の力も必要 |
TPPイレブンやEUとの経済連携協定を大きな力に
――米中間の摩擦は抜本解決の道筋が見えません。2045年の世界経済の構図はどうなっているのでしょう。
「いま起きているのは米中貿易戦争というより、米国型資本主義と中国型資本主義の対立だ。簡単に終わるものではなく、世界経済は今後2つの極端な考え方の間をさまよいながら歩んでいくことになるだろう」
「中国の資本主義はこれまで、自由や法の支配がないため経済成長率が低下すれば不安定化するとされてきたが、ビッグデータの存在でその見方は変わった。(中国で普及しているスマホ決済の)アリペイを8億人が使っているように、ビッグデータは中国のような(国が国民を統制する)国家資本主義のもとでこそ大量に集められる。気候変動など解決のために国が強制力を発揮する必要がある問題について米国型の株主資本主義では対応が難しく、行き詰まる公算が大きい」
――25年後の世界で日本が担うべき役割は。
「(トランプ政権以前の)米国が作り上げた自由貿易やグローバリゼーションといった自由な世界秩序の守り手としての役割だ。米国を除く11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP)や、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)などを実行していくことが重要だ。日本とEUは世界の国内総生産(GDP)の3割、貿易額の4割を占めており、大きなことができる」
「日本は(少子高齢化など)他国で先例のない課題を解決していく『課題先進国』とよく言われるが、実は山積する課題に追いついていない『政策後進国』でもある。例えば国や自治体が公共施設の資産を保有したまま運営を民間企業に任せる『コンセッション』による空港などの民営化は緒に就いたばかり。(若者の)学力低下などの問題も起きている。自由な世界秩序の守り手としての役割を果たしつつ、課題先進国と政策後進国の差を埋めるために挑戦する25年になるだろう」
日本郵政問題は民営化が不完全だから起きた
――市場原理と自由競争を重視するネオリベラリズム(新自由主義)の考え方は修正を余儀なくされたのでしょうか。
「かなり前から修正されている。主義主張で分類しようとするのは政策論としてまったく意味がない。実際の問題の解決にあたっては時に市場原理をもっと活用しないといけないし、時には政府の力も必要だ。どちらか一方だけでよいというわけではない。国営企業の民営化が大きな意義をもつこともあれば、環境問題には国の規制が必要ということもある。ラベル貼りの議論を卒業することが重要だ」
――元郵政民営化担当相として、保険の不適切販売など日本郵政グループをめぐる一連の問題への見方は。
「この問題の原因は明快で、民営化をしっかり進められなかったことにある。かんぽ生命保険の問題は政府が株式を保有しているため民間企業のように新商品を開発できず、古い商品を売らねばならないから無理が生じたということ。民間企業では起こらない問題だ。行政処分情報を前総務次官が日本郵政に漏洩した問題も、日本郵政に天下りの職員がいるから生じた。いずれも民営化が不完全だから起きた」
消費増税分を若い世代向け社会保障の財源に
――19年10月に消費税率が引き上げられました。税制の未来は。
「消費税率を引き上げる余地は当然ある。問題は何に使うかだ。高齢者の社会保障や財政赤字の穴埋めに使うのではなく、若い世代の社会保障のために使うべきだ。将来的に若い世代の保障を充実させるタイミングで消費税を引き上げ、国民に最低限の生活費を支給するベーシックインカムの制度の財源として活用すべきだ」
「日本の税制の最大の問題は所得税だ。年収が一定額を超えると急速に高まる一方で、そこまでの税率はかなり低い。世界的にみて異常な制度だ。高額所得者の所得税率が高ければ、優秀な人材は税率の低い国に向かってしまう」
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)氏
東洋大学教授、慶応義塾大学名誉教授。2001年発足の小泉政権で経済財政担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務相を歴任。経済学者の視点で銀行の不良債権処理や郵政民営化などの政策課題に取り組んだ。現在は日本経済研究センター研究顧問、パソナグループ会長なども兼ねる
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。