QUICK資産運用研究所=高瀬浩
ESG投資に対する機運がじわり高まりつつある。ESG投資とは、E(環境)・S(社会)・G(企業統治)への課題に問題意識をもって取り組んでいる企業に優先的に資金配分することで、資産運用を通じて「持続可能な社会」づくりへの働きかけを強める考え方だ。
■ESG重視なら市場平均並みパフォーマンスで十分
「きれいごとだけでは有望銘柄を見逃す」。ESG投資懐疑派の主張には一理あるが、世の中の風向きが少しずつ変わってきた兆しもある。今年2月には、市場平均以上のパフォーマンスを追求しないESG関連のETF(上場投資信託)として、三菱UFJ国際投信が運用する低コスト日本株ETFの「MAXISカーボン・エフィシェント日本株上場投信(コード:2560)」が登場。6日から東証で売買を開始した。
同ファンドが連動する「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」は、東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄を対象に、二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出量が少ない企業の比重を高め、排出量の多い企業の比重を下げて組み入れることで、指数全体の炭素排出量の削減を目指す。1730銘柄ほどの幅広い日本株で構成されている。
大きなポイントは連動する指数の運用パフォーマンスがTOPIXを目立って上回りも下回りもせず、ほとんど変わらない点だ。「ESGを重視するのであれば運用成績は市場平均並みで十分ではないか」という考えは、一定の訴求力を持ちそうだ。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は既に同指数に基づく運用でESG投資を手掛けており、2019年3月末時点の運用資産額は4000億円近くにのぼる。ここにきて、大型台風や豪州での大規模な森林火災など甚大な自然災害を目の当たりにし、気候変動への対策を急ぐ必要があるという意識が社会的に広がっているのが、今回の一般向けETF投入の背景にあるようだ。
■ESG度指数を独自開発
ESG投資への関心が高まる中で、個人が一般に購入できる投信について「ESG重視」度合いを評価するにはどうすればよいのか。QUICK資産運用研究所は、日本株で運用する公募追加型株式投信を対象に、ESG課題への対応に優れた企業に投資しているかどうかを示す評価指標として「ESG度指数」を独自開発した。
指数の基データにしたのは独ESG評価会社アラベスクS-Ray社のESGスコア。同社は全世界の上場企業を対象に、ESG総合とE、S、G各項目の計4項目について、企業の公開情報などを基にAI(人工知能)による解析を通じて、ESGスコア(100点満点で平均がほぼ50点となるよう標準化した数値)を算出・付与している。スコアは毎日更新するのが特色で、日本企業は現在、大型株を中心に600社近くが評価対象になっている。
今回開発したESG度指数は、各投信の組み入れ銘柄に対するアラベスクのスコアを組み入れ比率で加重合計したうえで、日経平均株価連動ETFの「日経225連動型上場投資信託(コード:1321)」(野村アセットマネジメント)のスコアを100として指数化した。数値が高いほどESGを重視し、低いほどESG評価の高い企業の組み入れが少ないことを示している。
ESG度指数の具体的な評価結果を見てみよう。表にESG関連の主な日本株投信をピックアップし、ESG総合、E、S、Gの順に指数値が大きいファンドを並べた。運用方針で、ESGやSDGs(国連が提唱している持続可能な開発目標)、環境、CSR(企業の社会的責任)、SRI(社会的責任投資)、女性や人材の登用・活躍推進、企業統治などに注目した銘柄選定を行うとしている投信がESG関連に該当する。
2020年1月末時点のリターン(過去1年・2年・3年)も表に併せて掲載し、ESGとは直接的に関係しない市場平均連動型ETFの「日経225連動型上場投資信託(コード:1321)」「MAXISトピックス上場投信(コード:1348)」(三菱UFJ国際投信)の2本とアクティブ型の例として「スパークス・新・国際優良日本株ファンド(80311083)」(スパークス・アセット・マネジメント)の指数値も表に追加した。
■日経平均もじつはESG重視、「スパークス・新・国際優良日本株」も
表の39本の中で、ESG度指数のESG総合が「日経225連動型」を上回ったのは半分程度。EとSは相対的に高評価が多いものの、対照的にGは劣るという傾向が浮かび上がる。日本企業の得意分野ともいえる環境対応技術への先進的な取り組みを長所としてさらに伸ばしていくことに期待がかかる。
一方、リターンに目を向けると「日経225連動型」を上回ったのはわずかだが、「TOPIX連動型」を超過しているファンドは少なくない。人材と設備への投資を積極化している企業で構成する「MAXIS JAPAN 設備・人材積極投資企業200上場投信(コード:1485)」と「ダイワ上場投信-MSCI日本株人材設備指数(コード:1479)」はESG度指数が高いうえに、1年リターンが「日経225連動型」の13.8%を少し上回る結果となった。
注意したいのはESG度指数が「日経225連動型」を基準にしているといっても、「日経225連動型」のアラベスクスコア自体は結構高い水準にあることだ。同ETFのESG総合スコアは57点、E・S・Gが各64・55・54点と全体平均の約50点を上回っている。その意味では「日経225連動型」は意識せずともESG重視の投資をしている「隠れESG投信」とみなすことができる。実のところ「ESGも重視しながら市場平均並みのリターン」を期待する向きには「日経225連動型」で十分なのかもしれない。
アクティブ型でESG投資を標榜していない「スパークス・新・国際優良日本株ファンド(80311083)」のESG度指数の高さも目を引く。同ファンドは評価決算日時点で大型株を主体にして東証1部上場の16銘柄に集中投資している。大企業はおしなべてESG課題への対応に前向きな経営を行っているのが高評価につながっているとみられる。リターンでも2年と3年リターンがともに「日経225連動型」を上回っている。同ファンドはアクティブ型の「隠れESG投信」といえそうだ。
ESG投資への重視度合いを示すことで、投信の新たな一面が明らかになってくる。QUICK資産運用研究所では日本株投信のESG度指数を順次公表していく計画だ。
【ESG度指数、計算上の留意点】
※投信の組み入れ銘柄とその組み入れ比率は、決算日時点の有価証券報告書のデータ(マザーファンド運用の場合はマザーファンドのデータ)を基にしている。このため、評価は決算日時点で行い、同日のアラベスクのESGスコアと突き合わせる。
※アラベスク評価対象の日本企業は現在600銘柄ほどのため、投信の組み入れ銘柄では評価対象外となる銘柄が少なくない。この点を考慮し、アラベスクのESGスコアが評価対象外となった銘柄にもあたかもスコアが付与されるような調整を施している。具体的には組み入れ比率で加重合計したESGスコアを、スコアが付与された組み入れ比率の合計値で割った数値を投信のESGスコアとしている。
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