NQNニューヨーク=川内資子
米国の長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時1.30%まで低下(価格は上昇)し、過去最低を更新した。新型コロナウイルスのまん延が世界経済を押し下げるとの懸念から、相対的な安全資産とされる米国債の買いが膨らんでいる。米連邦準備理事会(FRB)高官は当面は金利を据え置くとの姿勢を崩さないものの、市場関係者は既に利下げは既定路線とみて、関心は利下げの時期に移り始めた。
FRBはタカ派もハト派も様子見姿勢
米疾病対策センター(CDC)は25日、新型コロナの米国内での感染拡大について「時間の問題だ」と警告。米国で大流行した場合の学校や企業の対応方法についての概要も発表した。米国でも新型コロナの感染が広がるとのシナリオに現実味が増したと警戒感が強まった。米株式市場ではダウ工業株30種平均が連日で大きく下げ、逃避資金が米国債に流れ込んだ。
FRBのクラリダ副議長は25日の講演で、新型コロナの中国経済への影響が「世界経済に波及しかねない」と指摘した。一方、「(米)経済見通しの大幅な変更につながるのかを推測するのでさえ時期尚早だ」と述べ、市場に広がる年内の利下げ観測をけん制した。クリーブランド連銀のメスター総裁やミネアポリス連銀のカシュカリ総裁らここ数日発言したFRB高官は利下げに慎重なタカ派、積極的なハト派を問わず一貫して様子見姿勢を維持している。
6月と7月に連続利下げの見方
こうしたFRBのけん制球にもかかわらず、市場では利下げ時期を予想する動きが広がっている。ウェルズ・ファーゴのジェイ・ブライソン氏は「FRBが利下げするなら6月の公算が最も大きい」と予想する。そのころには新型コロナの米経済への影響がある程度わかる半面、11月の大統領選にはまだ間があるため選挙結果に作用しにくい。FRBの「中立性」にも寄与する。ブライソン氏は「利下げするなら0.25%で終わらず、6月と7月の連続利下げとなるだろう」とみる。
ネット・デイビス・リサーチのジョゼフ・カリシュ氏は「新型コロナの影響を過去の感染病流行時と比較するのは適切ではないかもしれない」と指摘。世界保健機関(WHO)による過去の6回の緊急事態の宣言時には、国債価格は宣言に先駆けて上昇した後は落ち着いた。だが今回はそうはいかない――。新型コロナの感染範囲が過去の事例より広がる可能性は高まっているとの懸念は強い。
ここまで買われても国債「極度の強気」にあらず
カリシュ氏は「新型コロナのショックは、経済活動が止まり人々が旅行を控えた2001年の米同時多発テロや、世界のサプライチェーン(供給網)を乱した11年の東日本大震災の方に近そうだ」と話す。いずれも米国債相場の上昇は2カ月程度続いた。ネット・デイビス・リサーチが金利先物から算出する、相場に対する強気度を示す指数はまだ「極度の強気」には至っておらず、「長期債相場が一段高となる可能性が高い」という。
MFRのカール・スティーン氏は「足元の債券高は行き過ぎにみえるが、10年債利回りが未知の領域に入ってしまった現状ではなかなか上値メドは立てにくい」と思案顔だ。債券高の持続性は結局は米株相場が下げ止まるかどうか次第とみる市場関係者が多い。米株価の先安観がくすぶるうちは債券利回りは下がる。そう想定しておいた方がよさそうだ。
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