日経QUICKニュース(NQN)=井口耕佑
記録的な株安・円高の中にあっても日本の個人投資家の「逆張り」マインドは崩れていないようだ。日経平均株価の前週末からの下げ幅が一時1200円を超え、円相場が2016年11月以来の高値水準を付けた9日の東京市場でも国内勢は相場の流れに逆らい続けているとみられる。株式市場では強気型の株価指数連動型上場投資信託(ETF)が物色され、外国為替市場では円売りが膨らんだ。
■「日経レバ」は売り注文の1.5倍の買い注文
円急伸に売り向かったミセスワタナベ
楽天証券によると、日経平均の2倍の騰落率になるよう運用する仕組みであるレバレッジ型ETF「日経レバ」の売買代金が2位以下を大きく引き離している。9日の日経レバは急落しているが、個人からは売りの約1.5倍の買い注文が入っているという。楽天証券の土信田雅之氏は「トヨタや任天堂、OLCなど、安くなった主力株の優待狙いの買い意欲も強い」と指摘する。
外為証拠金(FX)取引を手掛ける「ミセスワタナベ」の逆張り戦略も健在だ。資金に余裕のない個人の中には、円相場の1ドル=104円台から101円台までの急伸に耐えきれず、証拠金不足で強制的な持ち高解消(強制ロスカット)を迫られる人も少なくなかった。それでも「かなりの規模で円売り・ドル買いが出て、強制ロスカットに伴う円買いの勢いを緩めていた」(マネーパートナーズの武市佳史氏)。「円買いが一服した午後にかけては個人の円売りの存在感が増した」との指摘も聞かれる。
日経平均2万円割れは「割安」
日経平均株価は重要な下値メドとされていた2万円をなかなか割り込まなかったが、ついに「レンジ離れ」をしたことで逆張りの意欲が刺激されたらしい。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「個人投資家は材料にのっとった相場観でというよりも、『ずっと2万円台で推移していた日経平均の2万円割れは割安』とみて買っている面が大きい」と話す。
円相場は19年まで2年連続で最小値幅を更新し、投資家は「動かない円」を当然と考えていた。20年もしばらくは1ドル=110円挟みの水準で一方向には振れなかったが、ここにきて久しぶりの大相場に直面し逆張り機運が高まったのだろう。
たまる逆回転エネルギー、損失増幅も
逆張りは損失拡大の危険と背中合わせだ。「個人投資家は証拠金さえ手厚くすれば数年でも含み損に耐えられる」(国内FX会社)との声はあるが、相当な忍耐を強いられる。FXの場合、証拠金よりも運用額を膨らませる仕組みの「レバレッジ」を用いるケースが多く、もくろみ通りに事が運ばなければ逆回転のエネルギーがたまる。
外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は「円相場が1ドル=100円を超えて買われれば、さすがに個人も耐えられないだろう」と警戒する。松井証券では6日時点で個人投資家の信用評価損益率のマイナス幅が20%程度で高止まりしている。
新型コロナウイルスという未知の要因でリスク回避の動きが始まった以上、株、外為ともに従来の心理的節目での抵抗線が効きにくくなっている面もある。今後、リスク回避がさらに広がれば、耐えきれなくなった個人の売りが相場を一段と冷やしかねない。
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