QUICK Market Eyes=丹下智博、池谷信久
新型コロナウイルスが実体経済に与える影響が米国でも鮮明になってきた。景況感の悪化は雇用を奪いさらに景気が冷え込む。この悪循環を見越しつつ、産油国による増産競争という需給懸念も加わり原油価格は下値を試す。FRBが矢継ぎ早に打ち出した金融政策の効果を「帳消し」にする側面もある。
■米フィラデルフィア製造業景況感が7年8カ月ぶり低水準
19日に米フィラデルフィア連邦準備銀行が発表した3月の製造業景況感指数は、前月比49.4ポイント低下のマイナス15.5とQUICK FactSet Workstationによる市場予想(10.0)を大きく下回り、2012年7月以来7年8カ月ぶりの低水準となった。
個別項目では、「新規受注」が前月比49.1ポイント低下のマイナス15.5へ急落、「雇用」も同5.7ポイント低下の4.1となった。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、需要が蒸発し、雇用をも奪おうとしていることが鮮明となった。ISM換算値でも50を割り込み、4月1日に発表される3月のISM指数の50割れを織り込むことになろう。
■原油下落の負の側面
実体経済が先行き不透明感を強め、原油価格も一段と下値を試す展開となっている。20日のニューヨーク原油先物市場で、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物は一時20ドルを割り込み、2002年2月以来、約18年ぶりの安値を付けた。サウジアラビアなどの増産で原油の供給が増えると予想されるなか、新型コロナウイルスの感染拡大で原油需要が落ち込むとの見方が広がったことが背景。
WTIは20年初の60ドル台から3分の1以下に下落した。原油価格は物価への影響が大きく、債券市場で物価見通しを反映する「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」は1%を下回りリーマンショック時以来の低水準で推移している(青線)。この先10年の平均インフレ率について市場は、米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%を大幅に下回ることを想定していることになる。
BEIの低下は実質金利(名目金利-期待インフレ率、黄色)の上昇要因となる。19日の実質金利は0.62%と19年5月以来の水準まで拡大しており、19年7月以降の利下げ(合計2.25%)を帳消しする形になった。FRBは今後も、極めて緩和的な政策をとる公算が大きい。
<関連記事>
■金融機関同士でも貸し倒れリスク意識? 開き始めたあのスプレッド
■投信運用に学ぶ、大荒れ相場への対処法 レオスは「たっぷり仕込む」