NQNニューヨーク=張間正義
米国の国内総生産(GDP)の7割超を占めるサービス業に「需要蒸発」をもたらす新型コロナウイルスの影響で「デフレの芽」が出てきた。今後数カ月はデフレヘッジ(回避)目的の債券買いが強まり、金利上昇の余地が一段と乏しくなりそうだ。
■「デフレは差し迫った脅威だ」
13日のニューヨーク債券市場で長期金利の指標である10年物国債利回りは前営業日比0.05%高い(価格は安い)0.77%で取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)の金融調節を担当するニューヨーク連銀が1日当たりの国債買い入れの減額と5月からのドル供給を目的とするレポ取引の回数減を発表し、需給の引き締まりがやや和らぐとの見方から持ち高調整の売りが出た。
技術的要因で売られたものの、デフレ懸念の浮上による債券買いニーズは根強い。聖金曜日の祝日だった10日に発表された3月の消費者物価指数(CPI)は前月比0.4%低下と、2015年1月以来の大幅なマイナスだった。変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数も10年1月以来、10年2カ月ぶりの低下に転じた。渡航制限などの影響で航空料や宿泊料が下落し、「デフレは差し迫った脅威だ」(PNCファイナンシャルのチーフエコノミストのガス・ファウチャー氏)。
■需要蒸発
新型コロナの感染拡大は供給網の混乱による値上がり要因よりも、移動制限などによる需要蒸発の影響が大きいことを改めて示した。FRBは矢継ぎ早に金融緩和に打って出るが、「テールリスクとしてのデフレスパイラルも頭をよぎる」(ファウチャー氏)との懸念が高まる。
米国のレストラン業界によると3月に始まった米国での移動制限ですでに300万人の従業員が解雇され、4月末までに2250億ドル(24兆円)の売り上げ喪失に見舞われると予想する。さらに、ウェドブッシュ証券によれば、20年1~3月期の北米での映画の興行収入は前年同期比25%減、4~6月期は同91%減とさらに落ち込む。
JPモルガン・チェースのグローバル株式ストラテジストのミスラフ・マテイカ氏は「新型コロナがもたらす悪質なスパイラルに注意すべきだ」と警鐘を鳴らす。コロナショックは需要蒸発という形で個人消費を直撃するため、大幅な最終需要の減少 → 急激な労働市場の弱含み → 企業収益の減少 → 信用市場の悪化 → 原油など一段の物価下落の流れになる可能性があるという。マテイカ氏は個人消費の蒸発の程度ではコロナショックの影響はリーマン危機の2倍以上とみる。
移動制限が長引くほど、シェアの大きいサービス業が壊滅的な打撃を受ける状況が続き、物価の下押し圧力は強まる。クリーブランド連銀が算出する「インフレーション・ナウキャスティング」によると、13日時点で4月のCPIは前月比0.5%低下、コアCPIは0.2%の上昇となっているが実際には下振れすると予想する参加者は多い。
■「デフレ回避の手段は有する」?!
FRBと米政府の政策総動員で金融市場は落ち着きを取り戻しつつあるようにもみえる。FRBのバランスシートは3月以降、2兆ドル増加し今後の情勢次第では一段の緩和にも踏む込む。コロナ問題の収束で移動制限の解除が始まるとデフレ圧力は和らぐが、本格的な解除がいつになるのかは不透明だ。
債券市場が織り込む今後10年間の期待インフレ率は1.2%とFRBが目標とする2%を大きく下回る。経済学者でFRBの理論的支柱であるクラリダ副議長は13日、米メディアで「デフレ回避の手段は有する」と語った。FRBがデフレの芽にどう対応していくのか。手段を誤れば長期デフレの可能性が高まる。
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