QUICK資産運用研究所=石井輝尚
新型コロナウイルスの感染拡大の影響が富裕層を中心とした大口個人顧客向けの金融商品にも広がってきた。金融機関が顧客と投資一任契約を結び、顧客に代わってまとまった資金を投資信託などで運用する「投資一任サービス」の純資産総額(残高)は、3月末までの3カ月で1兆円以上も減少した。
投資一任サービスはファンドラップやSMA(セパレートリー・マネージド・アカウント)と呼ばれ、QUICK資産運用研究所の推計では専用ファンドの残高が2019年12月末時点で過去最高の9.24兆円だった。大手金融機関による「資産管理型営業」の推進で14年ごろから急拡大し、その後はペースが鈍化したものの右肩上がりで伸びてきた(図表1)。ところが20年3月末時点では8.19兆円まで減少。4半期ベースで1兆円を超す落ち込みは初めてとなる。
同期間の投資一任専用ファンド全体の資金動向をみると、流出額は900億円程度にとどまった(図表2)。一部の資金が相場急変により投信からキャッシュ(現金)に退避したほか、ファンドラップなどには顧客があらかじめ設定した下落率に達すると自動解約する機能がついたものがあり、今回はそれが発動したとの指摘がある。1兆円と比較するとほんの一部だが、再び資金が戻るかどうか不透明な分だけ楽観はできない。
残高が減少した要因の大半は、運用益が減ったためと推測される。主な投資一任専用ファンドを純資産総額(残高)順に並べると上位には債券に投資するファンドが多く、もともと比較的リスクを抑えた運用になっている。それでも全体ではコロナ禍で運用環境が悪化した影響から逃れられなかったということだ。
金融機関が金融商品の売買によって販売手数料を稼ぐ「コミッション型」のビジネスモデルから脱却を目指し、投資一任サービスのように顧客資産の残高に応じて報酬を得る「フィーベース」へと収益構造の転換を図っているさなかに起きたコロナショック。販売に力を入れてきた同サービスのつまずきは、店頭業務停止などによる営業制限ともあいまって、金融機関に大きな痛手になりそうだ。
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