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木村貴の明るい資本主義【01】マスクが語るグローバル経済の底力

[ざっくり3行まとめ]

  • マスク生産の背景にグローバル経済の巨大なネットワーク
  • 政府の命令なしに多数の人々が動き商品を作りあげる不思議
  • グローバル経済は国籍・文化の異なる人々による協力を可能に

最近、資本主義への風当たりが強い。富の格差を拡大させる、自然環境を破壊する、拝金主義がはびこる――などなど、さんざんだ。

そのうえ、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、また批判の種が増えてしまった。グローバル資本主義のせいで、ウイルスが世界中にあっという間に広がってしまったという。

たしかに、グローバル経済のもとでは人やモノが国境を越えて自由に移動し、それにつれて感染症も広がりやすくなるのは事実だ。その一方で、グローバル経済は人々に恩恵を与え、命を救いもする。しかも、とても不思議なやり方で。

■マスクの背後に広がる巨大なネットワーク

たとえば、ここに1枚のマスクがある。コロナ危機以来、手に入りにくくなった家庭用マスクだ。たいていの人は、この小さなマスクの背後に巨大なグローバル経済のネットワークが広がることを知らないか、忘れている。

よくある使い捨てマスクの場合、原料は原油だ。原油は中東やロシアなどの産油国から輸出され、タンカーやパイプラインによって、日本や中国の石油化学工場まで運ばれる。加熱してナフサという油を取り出し、そこからプロピレンという素材を得て、プラスチックの一種であるポリプロピレンを製造する。

※世界のプロピレン系誘導品の生産能力シェア

ポリプロピレンは別の工場に運ばれ、不織布という布に加工。いよいよマスク工場に材料として納品される。1枚のマスクを作るのに必要な不織布は、通気性のいい表用、肌触りのいい裏用、その間で飛沫をカットするフィルター用の3種類だ。

不織布からマスク本体を作り、鼻の形に合わせて曲げることのできるプラスチック製のノーズフィッターを組み合わせる。さらに耳ひもを取り付け、完成だ。

ここまででも、すでに相当な数の人たちがマスクの製造に携わっていることがわかるだろう。けれども、それだけではない。

マスクの原料であるプラスチックの生産設備は、鉄鋼でできている。鉄鋼の原料は鉄鉱石と石炭だ。日本の場合、鉄鉱石はオーストラリアやブラジル、石炭は同じくオーストラリアやインドネシアから輸入し、製鉄所で鉄鋼に加工される。

それ以外にも、原油や鉄鉱石を掘り出す機械の製造と操作、それらを運ぶタンカーの建造と運航、マスクを運ぶ段ボールの生産など、数え上げたらきりがない。世界中で何千人もの人たちが協力し合って、私たちのもとにマスクを届けてくれているのだ。

■政府の命令なしにマスクはできる

不思議なことに、マスクの生産に関係する人々に対して、誰かが中央集権的な本部にいて、一斉に命令を下しているわけではない。そもそも命令がないのだから、警察が命令違反を取り締まるわけでもない。それぞれの人が自発的に行動しながら、マスク生産という目的をきちんと果たしている。

今はコロナ拡大の影響でマスクが品不足に陥り、政府が民間企業に対し増産を呼びかけてはいる。けれども生産の具体的な方法まで指示しているわけではないし、もともと政府の要請などなくてもマスクは滞りなく供給されていた。

米国の事業家でエコノミストでもあったレナード・リード氏という人が1950年代、「私は鉛筆」というエッセイを書いている。1本の鉛筆がどれほど世界中の多くの人の手を経て完成するかを描いたものだ。

リード氏は、政府が命令を下しているわけでもないのに、世界中の無数の他人どうしが自発的に協力し合う「奇跡」を素直に称える。そして、この協力関係を発展させるには、政府は介入せず、人々の創造的な活力を自由に解き放たなければならないと説く。

経済学者のミルトン・フリードマン氏は著書『選択の自由』でこのエッセイを紹介し、感嘆を込めてこう記す。

「何千人もの人びとは、あちらこちらの諸国に住んでいて、異なった言語をしゃべり、いろいろな違った宗教を信仰しているだけでなく、ひょっとするとお互いに憎悪しあっている可能性さえある。そうだというのに、このような相互間の相違は、鉛筆を生産するためお互いが協同するのに、なんの障害にもなっていない」(翻訳・西山千明氏)

■国籍・文化の違いを越えて協力し合う人々

マスクも同じだ。世界の遠く離れた地域に住み、国籍・文化が異なり、政治的に対立しているかもしれない人々が協力し合い、一つの製品を作り上げていく。何でもないことのように見えても、これはたしかに驚きに値する。

コロナの感染拡大で国際的なサプライチェーン(供給網)が分断され、物流に深刻な影響も出ている。そうした中でも、マスクなど一部の製品を除けば、スーパーやコンビニには普段とそれほど変わらず、多種多様な商品が並んでいる。むしろこの事実に驚嘆せずにいられない。

手ごろな値段で買える、栄養のある食品、清潔な衣服、快適に動くパソコン。コロナ危機をしのぐために必要な条件は、グローバルな資本主義の働きなしには供給できない。遠からず、世界の企業によってワクチンも発売されるだろう。グローバル経済って、やっぱりすごい。

私たちは資本主義についてよく知っているつもりでいて、知らないことがまだまだ多いのではないでしょうか。これからこの連載で、資本主義について一緒に学んでいきましょう。時々のニュースも絡めて解説します。(原則、毎週火曜日の午後に公開します)

著者名

QUICKリサーチ本部長 木村 貴


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