HSBCグローバル・アセット・マネジメントのアジア・クレジット部門統括責任者、アルフレッド・ムイ氏がアジア・ハイイールド債についてリポートします。
新型コロナウイルスのパンデミックは世界の金融市場に大混乱を引き起こし、市場価格の大幅な急落と極度の変動性をもたらした。多くの市場が激しく変動するのに比べると、アジア・クレジット市場のパフォーマンスは健全なファンダメンタルズを背景に全般的に堅調だ。アジア・ハイイールド債市場を中心に魅力的な投資機会が生じたと当社ではみている。
ファンダメンタルズは健全
新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて、アジア各国の政府は並外れた規模の財政刺激策および金融緩和政策を導入した。これには利下げ、金融システムへの大規模な流動性の注入や減税、企業および従業員を対象にした支援などが含まれている。アジアの主要国の大半では健全な財政状況および良好な外部資金の調達環境のために適切な支援を提供できている。
経済の活力の恩恵を受けて、アジアの債券市場は他地域の債券市場よりも多様な上昇の可能性を持っている。新型コロナの影響にもかかわらず、アジアの債券市場は他地域のクレジット市場の大半より2020年の年初来のパフォーマンスが好調だった。これはベースとなるファンダメンタルズが引き続き良好で、利回りが依然として魅力的であるためだ。
投資家はパンデミックによって引き起こされた混乱によるデフォルト(債務不履行)率の上昇を懸念している。今後、パンデミックの影響によりデフォルトとなる債券が現れてくるのは確実だと当社では考えている。しかし、アジアのドル建て債券市場におけるデフォルトの状況は一部の投資家が予想するほど深刻なものではないとみる。
当社の分析によれば、アジアにおけるパンデミックの状況がさらに深刻になり半年以上、さらに1年続いた場合でも、アジアのドル建て債券市場のデフォルト率は4~6%程度となり、米国市場における8~13%という水準を下回る見通しだ。この主因はアジアのクレジット市場のエネルギー・セクターに対するエクスポージャー(リスク関与度)が小さいという事実だ。
中国に代表されるように、アジアではエネルギー関連の大企業の多くは政府支援を受けており、準政府機関的な地位にある。現在の市場では、中国の不動産開発会社が発行した債券がアジア・ハイイールド債券市場で大きな比率を占めており、上位30銘柄の大半は短期的な資金ニーズを満たす資金調達をすでに完了している。資金調達の必要性が低下したため、市場におけるデフォルト率は低くなる。
これによりアジアのクレジット市場が直面するのは各企業特有のリスクになり、米国の石油セクターや小売りセクターの社債が直面している業界全体を覆うリスクとは対照的となる。
魅力的なバリュエーション
今年初めにアジアのドル建て債券市場は大きく調整した。その後、アジアのハイイールド債は平均利回りが9%程度となった。アジアのハイイールド債市場には魅力的な投資機会が生じている。
債券がデフォルトとならない、つまり表面利率と額面金額が維持されている場合、市場価格が下がれば同じ資産を大幅に低い価格で購入できる。投資家がデフォルトの可能性のある債券を避けられれば、市場が回復した時点で魅力的な投資収益率を獲得できる。
債券市場が直面してきた問題の一つが流動性、つまり売買スプレッドが過度に拡大することなく、希望通りに証券を売買することだ。債券は通常、取引所ではなく、独立した相手(カウンターパーティー)との相対取引になる。したがって市場参加者の大半が特定の債券の売却を望み、購入を希望する投資家がほとんどいない場合は買い手と売り手の注文を対応させるのが困難になる。
この場合、市場における決済価格がファンダメンタルズに基づく価格をはるかに下回り、バリュエーションに基づく理論価格から大幅に値引きされた価格で取引される可能性が生じる。
投資家が保有証券の中で最もリスクの高い債券を売却できない場合は、より安全な証券を売却せざるを得なくなる。信用リスクの観点から、市場で最もリスクの高い債券を回避し、魅力的な利回りと元本保全の可能性が高い債券に集中的に投資する。こうした行動により、信用力に基づく銘柄選択のプロセスが一段と重要になる。
当社が運用しているファンドを例に挙げれば、年初のような困難な時期に流動性を最大限に維持するためいくつかの手段を講じた。その中には、長短期の米財務省証券など流動性の高い市場への資産配分で、ファンドの流動性を高めることなどが含まれていた。
パンデミックは金融市場に大混乱を引き起こし、クレジット市場も例外ではない。しかし、アジアのハイイールド社債市場は、高い利回りを求めている投資家にとって魅力的な市場であると当社では考えている。
本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元であるトニー・クリップス氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。