産油国の協調減産や欧米諸国の経済再開を背景に急ピッチで上昇してきた原油相場に歯止めがかかる可能性が出てきた。ロシアが減産縮小を望んでいると伝わり、石油輸出国機構(OPEC)との足並みの乱れを不安視する声が出ている。新型コロナウイルスの新たな震源地となった南米諸国で石油製品の需要が減少していることも重荷となっているようだ。
■原油先物、「OPECプラス」が上値の重荷
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)では、米指標油種であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物の相場回復が際立つ。4月20日に初のマイナス価格に沈んだが、その後は急速に値を戻し、30ドル台に乗せた。5月下旬以降はおおむね1バレル33~34ドル付近の水準で推移している。
最近上値が重くなってきた理由の1つはOPECとロシアなどの非加盟産油国で構成される「OPECプラス」の協力体制の行方に不透明感が出てきていることだ。米ブルームバーグ通信は27日、ロシアが7月からの減産緩和に着手する方針だと報じ、関係者の間に失望感が広がった。
OPECプラスは日量970万バレルの協調減産を実施中で、7月から段階的に減産量を縮小することで4月に合意している。ただ原油価格のさらなる回復を目指すサウジアラビアなどは協調減産の延長を模索しているとみられてきた。6月10日にはOPECプラスのテレビ会議を控えている。会議までに現状の減産幅を維持するのか、減産幅を縮小していくのか、読みにくくなってきた。
■米シェールオイル企業の生産再開観測
原油相場が急速に回復したことで、採算ラインを重視し、生産を止めていた米国のシェールオイル企業が生産を再開するとの見方もある。ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは「1バレル30ドルの回復により、操業コストを賄える企業が出てくるだろう」とみる。
■コロナで南米景気の悪化も原油相場の下押し材料
南米諸国で新型コロナの感染拡大が広がっていることも懸念材料だ。例えばブラジルは28日の新規感染者数が2万6000人を超えた。累計の感染者数は43万8000人で米国に次いで2番目に多い国になった。南米諸国の経済活動の低迷が懸念されている。
南米諸国も原油は産出しているが、軽油やガソリンなどの精製能力が不十分なため、石油製品の一部については米国などからの輸入に頼っている側面がある。フジトミの斎藤和彦チーフアナリストは「石油製品の輸出が滞り、米国内の在庫が増加すると、原油相場を下押しする材料となる」と話す。
市場参加者からは原油価格の上昇余地は限られてきたとの見方が多い。フジトミの斎藤氏は「当面は1バレル30~35ドルの水準で推移することになるだろう」との見方を示す。足踏みしている原油相場が近いうちに上昇基調に戻るとみるのは早計だろう。
〔日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾〕