米商務省が5月29日に発表した4月の個人消費支出は前月比13.6%減。統計開始以降で最大の低下で、市場予想の12.6%減を上回る落ち込みだった。変動が大きい食品とエネルギーを除いたコア個人消費支出(PCE)価格指数は前月比0.4%低下。こちらも2001年9月以来となる大きな落ち込みになった。
個人消費支出は株価に影響し、コアPCE価格指数はドル相場に影響する。これがウォール街の常識だ。ところが発表を受けた29日の取引では株式相場もドル相場も統計に無反応だった。相場を動かしたのは米中対立など別の要因だった。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウン(都市封鎖)が長期化するとともに、金融市場が経済指標に反応しない傾向が強まった。なぜか。
国際通貨基金(IMF)は5月26日付けのブログでこう解説している。「正確でタイムリーな経済データは政策決定の参考情報として、危機下では特に重要だ」。そのうえで「しかし、新型コロナウイルスの世界的流行によって、多くの重要な統計の作成が中断している」という。
UBSのエコノミスト、ドノバン氏は投資家向けのメモで、都市封鎖中の経済指標は「ナンセンス」だと指摘した。調査に応じる人がいなくなり、新型コロナウイルスの感染拡大前と比べて統計の質が悪化している。現在はエコノミストが想像するしかない状況だとコメントした。他の市場関係者からも統計が不完全な上に、景気が悪いことは誰でも想像できるのでマーケットが無視しているとの声が聞こえる。
ウォール街には「セル・イン・メイ」との格言があり、歴史的に5月は株式相場が下落する傾向があるが、今年の5月は大幅高となった。ダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数は月間で4%超上昇。ナスダック総合株価指数は6.7%上げた。6月に入ると米雇用統計をはじめとする様々な経済指標が相次いで発表される。それでも市場関係者の関心は低い。相場を動かすのは信頼性の低下した指標ではなく米中対立や全米に広がる黒人暴行死の抗議デモになりそうだ。(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報発信