8日の東京株式市場で、日経平均株価は終値で前週末比314円高の2万3178円と約3カ月半ぶりに2万3000円台を回復した。新型コロナウイルスの感染拡大で株価が世界的に急落する前の2月21日の水準(2万3386円)も視野に入る。著名ストラテジストの武者陵司・武者リサーチ代表は良好な株式需給や世界的な金融緩和政策を追い風に、日経平均は2021年に3万円の大台を回復すると予想する。
(聞き手は日経QUICKニュース 内山佑輔)
■海外投資家の買い戻し、まだ続く
――株式相場が急速に戻しています。
「米経済が良くなるとの見方が一気に強まっていることが背景だ。新型コロナの感染が世界的に拡大する前から、個人投資家が現金の一時的な置き場として利用する米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)には、米景気回復に持続性がないとの見方から高水準の資金が積み上がっていた。コロナ禍対応で空前の金融緩和策や財政政策が打ち出される中、人々の間で根強かった悲観論が大転換を迎えている」
「米連邦準備理事会(FRB)は9~10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で現状の政策を維持するだろう。いまはすでに決定している政策について、着実に実行へ移していく段階だ。米金利の上昇については景気回復に見合った水準であれば問題ないし、国債利回りに誘導目標を設けるイールドカーブ・コントロール(YCC)策の導入などでも制御できるので、特に懸念はない」
――今後の日米の株価見通しは。
「海外投資家などの買い戻しはまだ十分ではなく、日経平均は数週間以内に2万4000~2万5000円に乗せる可能性が高い。21年にコロナ感染が収束していけば、3万円を突破するだろう。逆に下がる理由は乏しい。パンデミック(世界的大流行)の収束や世界的に大規模な金融緩和策、次世代通信規格『5G』といった技術転換による経済の成長性を踏まえると、売り方は不利な状態にある」
「米ダウ工業株30種平均も21年に向けて3万2000ドル程度までは上昇余地がある。ただバリュエーション(投資尺度)面でみると日経平均ほどの割安感はないので、上昇ペースは相対的に緩やかになるだろう」
■医療崩壊、日本で起きる可能性低い
――新型コロナ流行の「第2波」を懸念する声もあります。
「確かに感染が再拡大する可能性は捨てきれないが、一番のリスクとなる医療崩壊について、日本国内で起きる可能性は低いと考えている。足元でも新規の感染者数より退院する患者の方が多く、医療機関のキャパシティー(受け入れ能力)にはだいぶ余裕が生まれている。最初の感染拡大時に対応した際の経験も生かせるため、制御不能に陥るほどの感染拡大は起きないだろう。医療崩壊さえ起こらなければ、完全ではないにしろ経済を回すことはできる」
――米中対立などほかのリスク要因については。
「米中対立は長期戦の様相だ。ただ持久戦での対立は直ちに経済へ大きな悪影響を与えることにはならない。中国政府が香港への統制を強める『香港国家安全法』の制定方針採択を巡る米国による制裁も、市場が不安視していたほどのものではなく、中国に致命傷を与えるような内容にはなっていない。香港の国際金融センターとしての地位を揺るがすような事態でもない」
「白人警官の暴行による黒人死亡事件をきっかけにした米国内のデモ拡大については、現時点ではどのように収束するか見通せない。ただ、株式市場に大きな影響をあたえるものではないと考えている。デモなどがきっかけになって仮に民主党のバイデン前副大統領が次期大統領になっても、財政余力を使った高度な社会福祉を目指すなど新しい財政主導の経済を構築する可能性もある。株式市場にあまり悪影響はないのではないか」