ロサンゼルス郊外に向かうためフリーウェイを走行中、軍の装甲車や兵士が乗ったトラックの行列と遭遇した。白人警官の暴行で黒人のジョージ・フロイドさんが死亡した事件に抗議するデモが拡大したことを受け、ナショナルガード(州兵)が治安維持の任務についた。混乱が収まったため、任務が解除されたようだ。基地があるサンディエゴ方面に向かう軍の車両にドライバーが窓を開けて手を振り、兵士がそれに応える。戦勝パレードの後のような光景だった。
13日目となった7日のデモ。ロサンゼルス市長や警察幹部が片膝を地面につけて賛同する姿勢を示したことで、デモの性格が変わった。人種、民族、職業、年齢に関係なく幅広い層が参加。ニューヨーク、シカゴ、アトランタ、マイアミ。全米の主要都市で、人種差別の是正、警察の改革、米国が変わることを平和的に訴えた。
抗議行動がかつてない規模に拡大するなか、トランプ大統領が5月の雇用統計が予想外に改善したことを受け異例の記者会見を開いた。ホワイトハウスの庭で、暴行死したフロイド氏が空から見下ろしていると述べた上で、「彼にとっても素晴らしい日だ」と笑顔で強調した。白人警官を称賛するツイートで批判されたトランプ氏が再び不謹慎な発言をしたと批判が強まった。
記者会見の翌日、バイデン前副大統領が11月の大統領選における民主党の指名獲得を確実にした。CNNが5日発表した最新の世論調査では、バイデン氏の支持率がトランプ氏を10ポイントもリード した。ワシントン・ポストとABCの共同調査がトランプ氏の不支持率が上昇したことを示し、NRPとPBSによる調査はトランプ大統領の対応が緊張を高めたと答えた人が67%に達した。
2016年の大統領選前の世論調査では、トランプ氏とヒラリー・クリントン候補の支持率の差が2ポイントしかなかった。現時点で、トランプ大統領が再選を果たす可能性が低下したとみられている。現役の国防長官と前国防長官、そして元参謀総長が「国家を分断している」としてトランプ氏を批判した意味も大きい。共和党の議員の間でもトランプ離れが進みつつある。
米CNBCによると、ゴールドマン・サックスのストラテジストのコール・ハンター氏とデビッド・コスティン氏は、11月3日の選挙に関し、民主党が勝利する可能性が高まりつつあると顧客メモで述べた。大統領選でバイデン氏が勝利する確率が51%、下院で民主党が勝つ確率は77%、上院が50%と予想した。バイデン氏と民主党の経済政策の分析を開始したウォール街関係者もいる。
選挙まで5カ月。現役の強みを生かしてトランプ大統領が選挙前に追加減税策を発表するとみられ、主要7カ国首脳会議(G7サミット)で指導力をアピールすることも狙っている。ソーシャル・メディアのフォロワーがバイデン氏の10倍超いることも強みだ。大きく傾いた変革を望む大波にバイデン氏がうまく乗れるか。まだわからない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信