2日発表の6月の米雇用統計は市場予想を大きく上回ったが、米長期金利の反応は鈍かった。米国の新型コロナウイルスの新規感染者数が過去最多となるなか、感染「第2波」による7月以降の雇用鈍化に市場の目線が移っているためだ。
雇用統計の非農業部門の雇用者数が前月比480万人増と市場予想(290万人増)を大幅に上回った。0.67%で推移していた米10年物国債利回りは発表直後に0.70%を付けたが、その後はあっさりと発表前の水準に戻り、一時は0.66%まで低下。そのままの水準で取引も終えた。
■クレジットカードの利用も減
金利上昇が限られたのは感染第2波による米景気回復の鈍化が現実味を帯びつつあるためだ。1日当たりの新規感染者数が過去最高水準で推移しているフロリダ州やテキサス州では感染阻止のため経済再開を巻き戻す動きがでている。米紙ワシントン・ポストによれば、全米で最大の経済規模を誇るカリフォルニア州では同州の75%の人口を占める地域でレストランの店内営業が中止となった。
JPモルガンによると、自社発行のクレジットカード利用者3000万人の購買履歴データでは6月中旬以降、アリゾナ州やフロリダ州などで急激な利用の減少がみられるという。「日々の消費や移動に関する(時系列で詳細に把握できる)高頻度データは7月以降の雇用増加は鈍化することを示唆している」(CIBCキャピタル・マーケッツのアンドリュー・グラハム氏)。
■FRB依存続く
「債券市場はすでに米連邦準備理事会(FRB)の管理下にある」(米国債トレーダー)との見方も経済統計に対する市場関係者の反応を鈍くさせている。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨ではゼロ金利を維持する期間を指針として明示する「フォワードガイダンス」の強化に前向きな声が多かった。失業率や物価上昇率があらかじめ決めた水準に到達するまでゼロ金利政策を維持すると約束する政策で、9月に導入が決まれば低金利の長期化観測が一段と強まる。
FRBが6月時点では2022年までのゼロ金利政策の継続をみているのに対し、長期の景気停滞やインフレ率の鈍化で「24年半ばまで続く」(カナダのTDセキュリティーズ)との見方も市場では聞かれる。
「量」の面でもFRBは今後、数カ月にわたり月間800億ドルの米国債を買い入れる方針だ。10~11年の量的緩和第2弾(QE2)の月額750億ドル、12~14年の第3弾(QE3)の月額850億ドル(不動産ローン担保証券なども含む)とほぼ同じ規模の買い入れだ。米政府による国債増発への対応策はすでに準備されている。
ゼロ金利政策と量的緩和の両面で長期金利は長期間にわたり押さえ込まれる。5月以降、市場予想を上回る米経済統計の発表が相次いだにもかかわらず、長期金利は0.6~0.9%のレンジから放れることはなかった。FRBの緩和姿勢が、経済統計などが債券市場に与える影響を抑えているためだ。
FRBが6月に示した、景気を熱しも冷やしもしない長期的な政策金利(中立金利)の水準は2.50%だった。一方、市場の政策金利に関する見通しを映す翌日物金利スワップ(OIS)では10年先でも1%未満で、市場とFRBの将来認識はかなり乖離(かいり)しているともとれる。長期金利の1%割れの常態化は想定以上に長引く覚悟が必要だろう。(NQNニューヨーク=張間正義)