米主要メディアで新型コロナウイルスの感染拡大がトップニュースになる日が続いている。12日には、フロリダ州で過去24時間の新規感染が1万5299人と、4日前にカリフォルニア州が更新した州単位の最多記録を大きく塗り替えた。
新型コロナウイルスの感染増が目立つのは「サンベルト」といわれる地域だ。北緯37度以南の温暖な15の州を指す。西のカリフォルニア州、中央に位置するテキサス州、東のフロリダ州は州別人口のトップ3だ。3州の感染が爆発的に増加し、全米の感染者数を押し上げている。大都市圏でのコロナ蔓延がトランプ大統領にとって逆風になっていると指摘する。
大統領選で選挙人が最も多いカリフォルニア州は伝統的に民主党が強い。2位のテキサス州は共和党の州とされる。3位のフロリダ州は激戦州で、どちらにも傾く可能性がある。リアルクリア・ポリティックスのまとめでは、フロリダ州の世論調査の平均は民主党候補に確定したバイデン前副大統領が5.2%リードする。共和党地盤のテキサス州ではトランプ大統領とバイデン氏の支持率がいずれも45%でタイ。サンベルトでのトランプ大統領の劣勢ぶりを示唆している。
2016年の大統領選でトランプ氏を勝利に導いたとされる「ラストベルト」。ラストは英語で錆(さび)の意味だ。米中西部から北東部の鉄鋼、石炭、自動車などの主要産業が衰退した白人ブルーカラーが多く住む地域を指す。バイデン氏は9日、ラストベルトの一角であるペンシルベニア州スクラントンにある金属工場で演説し、米国製品に重点をおいた製造業促進を含む7000億ドル(約75兆円)の経済復興計画の枠組みを発表した。トランプ氏が打ち出した「米国ファースト」を強く意識したとみられ、トランプ氏は「政策の盗用だ」と批判した。
トランプ氏は2016年の選挙でヒラリー・クリントン候補との接戦を制し、ペンシルバニア州の30人の選挙人を獲得した。各社の世論調査では、いずれもペンシルベニア州でバイデン氏がリード。バイデン氏が9日の演説場所にペンシルベニア州の工場を選んだのは、州の選挙人獲得を確実にすることが狙いだったとみられる。
11月の選挙の鍵を握るサンベルトとラストベルト。世論調査でトランプ氏の劣勢ぶりがうかがえるがまだ予断を許さない。バイデン氏が攻め、トランプ氏が守りに入ったようにみえる。トランプ氏は11日に軍の病院を訪問した際、批判を意識して公の場で初めてマスクを着用した。コロナをめぐる発言も以前と比べ非常に慎重になった。
4年前、各社世論調査はクリントン氏が優勢であることを示し、誰もがトランプ氏が敗北すると考えていた。新型コロナウイルスという特殊な要因があるため比較が難しいが、今回も世論調査が正しいとは限らないとの指摘がある。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信