独ESG評価会社アラベスクS-Rayは酒やタバコ、化石燃料など社会的に賛否両論のある事業にかかわる会社を識別する「選好フィルター」を提供している。ESG(環境・社会・企業統治)の観点で投資対象から除外される可能性が高い分野を見分ける機能だ。環境面で注目される「化石燃料」銘柄を見てみよう。
■化石燃料のほか遺伝子組み換え作物や幹細胞なども
アラベスクS-Rayは「選好フィルター」として、大人の娯楽、防衛、ギャンブル、遺伝子組み換え作物、原子力、豚肉、幹細胞、武器も提供している。ホームページの説明によると、その事業の年間売上高が全体の5%超といった基準で判断している。今後、項目の追加や、基準の売り上げ比率をユーザーが選べるようにする変更を検討中という。
今年前半、4月にニューヨーク原油先物価格が史上初めてマイナスになるなど原油価格が急落した。2020年3月期の決算発表では在庫評価による損失や減損損失の計上を余儀なくされた石油元売り会社もあった。新型コロナウイルスの影響もあり、世界的な景気減速で需要が低迷し、総じて「化石燃料」関連の株価にマイナスの影響を与えた。
「化石燃料」の選好フィルターで日本企業を検索したところ、6月30日時点で石油元売り、資源、電力・ガスのほか一部の商社、化学、機械メーカーなどを含む25社が該当した。同業で含まれない会社は、売上高比率などの基準が満たないためだとみられる。
選好フィルターの「化石燃料」に該当する国内25銘柄の今年6月末と昨年末の株価を比較したところ、21銘柄が下落した。このうち17銘柄の下落率が2桁で、日経平均株価の5.8%下落や東証株価指数(TOPIX)の9.4%下落よりも大きかった。
今年6月末と同3月末の株価を比べると、日経平均やTOPIXが2桁の上昇率を記録したのに対し、25銘柄のうち上昇したのは14銘柄にとどまった。11銘柄は下落しており、相場全体が反転する中で、戻りが鈍かった。
■選好フィルターはESGスコアに影響しない
もし投資家が選好フィルターに従って「化石燃料」銘柄をもともと保有していなかったら、1~6月期や4~6月期に、そのポートフォリオは相場全体に比べて相対的に運用成績が良かった可能性がある。原油安の直撃を免れたからだ。
もっとも、「選好フィルター」は企業のESG課題への取り組みを評点する「ESGスコア」に影響を与えないという。25銘柄のうち15銘柄のESGスコアは、6月末時点で調査対象だった日本企業552社平均の53.73点を上回った。ESG投資だからといって、「選好フィルター」の該当銘柄を必ずしも除外する必要はなく、アラベスクS-Rayは判断材料の1つを提供しているに過ぎない。
「選好フィルター」の影響を考えるために四半期や半年間の株価動向を見てポートフォリオへの影響を推測したものの、ESG投資はやはり長期投資が前提のはずだ。ESG課題への取り組みを評価して投資するなら、短期的な株価の騰落に一喜一憂すべきではない。
今年前半のESG投資の好成績は、化石燃料に関連する銘柄の保有が少なかったのが一因かもしれないが、もちろんそれだけではないだろう。コロナ禍にあって人的資本やサプライチェーンの管理といったESG課題への対応力に対する株式市場の評価も見逃してはならない視点だ。(QUICKリサーチ本部 遠藤大義)