外国為替市場でユーロの対ドル相場が強含んでいる。米国では新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、米中対立も激化の一途だ。ドルに売り圧力がかかる一方で、ユーロ圏では欧州連合(EU)が新型コロナで打撃を受けた経済の復興基金に合意し、景気指標も改善するなど好材料が相次いでいる。景気の改善期待に「米欧格差」が生じ、ユーロは外為市場の主役になっている。
■欧州景気の改善期待
ユーロはEUが復興基金の創設で合意した7月21日前後から上昇基調を一段と強めた。27日には1ユーロ=1.1781ドル近辺まで買われ、対ドルで1年10カ月ぶりの高値に浮上した。28日15時時点では1.1737~38ドルとやや利益確定売りに押されているが、依然として高値圏での値動きが続いている。
ユーロ上昇の背景には欧州景気の改善期待の高まりがある。独Ifo経済研究所が27日に発表した7月の企業景況感指数は市場予想を上回る結果だった。24日発表の7月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)は製造業とサービス業を合わせた総合で54.8と約2年ぶりの高水準だった。欧州の景気指標は改善が続いている。
国際通貨基金(IMF)は2021年のユーロ圏の経済成長率が6.0%と、米国の4.5%を上回る改善になると予想している。欧州は米国に比べて新型コロナの感染拡大を押さえ込んでおり、市場では「景気に対する米欧の期待の差がユーロ買い・ドル売りにつながっている」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)との声がある。
■対ドルで105円を突破か
ユーロの対ドル相場の上昇は円の対ドル相場にも影響する。円は先週末に1ドル=106円を突破し、その後ほぼ4カ月ぶりの高値を付けた。ユーロに対するドル売りが、円の対ドル相場にも波及したとみられる。円とドルは、どちらも低リスク通貨と位置付けられ、このところ同じタイミングで売買されたため値動きが乏しかったが、ユーロの上昇をきっかけに膠着感が払しょくされつつある。
ユーロの対ドル相場は目先、チャート上の節目として意識される18年9月の1ユーロ=1.1815ドルを超えられるかが焦点とされる。マネーパートナーズの武市佳史氏は「この水準を突破するとユーロ買い・ドル売りが加速し、円が対ドルで105円を突破するきっかけになる」と予想する。
■「危うい状況」
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏によれば、ユーロが発足した99年1月を基準としたユーロの対ドルでの購買力平価は6月時点で1ユーロ=1.27ドル前後だ。ユーロ圏が安定的に経常黒字を確保している現状とあわせて考えれば、今の水準でも「ユーロ相場は割安」という。
もっとも、ユーロ圏の銀行貸し出し態度が厳格化しつつある点には注意が必要だ。欧州中央銀行(ECB)の調査では、7~9月期に銀行の貸し出し態度が急激に厳しくなるとの見通しが示されている。企業の借り入れ需要も高まっているという「危うい状況」(みずほ銀行の唐鎌氏)で、資金繰りに行き詰まる企業が今後増えてくればユーロの重荷になる可能性がある。円相場の先行きを分析する上でも重要な通貨だけに、当面はユーロ相場の動向から目が離せない。〔日経QUICKニュース(NQN)川上純平〕
<金融用語>
外国為替市場と
外国為替市場は、全てが相対マーケットで成り立っている。よって、株式市場のように金融商品取引所はない。相対マーケットであるので、例えば、海外旅行に行く際に、銀行に行き、日本円をアメリカドルに両替したとすると、そこが外国為替市場となる。 ただし一般的に、外国為替市場とは、銀行間(インターバンク)市場のことを指す。海外旅行の際の両替など顧客からの注文は、銀行などの金融機関が、一度、自己ポジションでその注文を受け、銀行間市場で、その自己ポジションの調整を行うことで、成立している。 外国為替市場において、東京市場という考え方は、単に時間的な区切りでしかない。月曜日の朝にシドニー市場(東京午前3時頃から)が始まり、金曜日のニューヨーク市場(東京土曜午前6時)が終わるまで不断に連鎖して続いている。