7月17日、EU公式の気候ベンチマークに関する委任法令の最終案が欧州委員会で提出された。気候ベンチマークの構成銘柄から、化石燃料、タバコ、問題性のある兵器の製造と販売に関与する企業および国連グローバル・コンパクト等の国際規範に違反する企業を除外することを決めた。
欧州委員会は、2018年3月8日に「アクションプラン:持続可能な成長に向けた金融」を公表し、サステナブルファイナンスの実現に向けた10項目からなる行動計画を打ち出した。
このうちの一つに、EU公式の気候ベンチマークの策定がある。これは、サステナブルを表明するインデックス構成銘柄の選定基準が一致しておらず、「グリーンウォッシュ(Greenwashing)」のリスクが高まり、サステナブルな資産への投資が阻害されてしまうことから、各企業がインデックスを開発・運営するにあたり考慮すべき基本的な要件を定めることを目的としている。
欧州委員会は2018年5月にベンチマークに関するEU規則2016/1011の改正法案を提出。また、サステナブル金融に関するテクニカル専門家グループ(Technical Expert Group on Sustainable Finance: TEG)は、2019年6月にベンチマークに関する中間報告書を、2019年9月には最終報告書を公表した。
そして7月17日、ベンチマークに関する委任法令の最終案が欧州委員会で提出された。欧州議会または欧州理事会は、2か月以内に委任法令に対する異議を申し立てることができる。異議申し立てがなかった場合は、欧州連合官報に掲載され、20日後に発効する。
EU公式の気候ベンチマークは、「気候移行ベンチマーク(CTB:Climate Transition Benchmark)」と「パリ協定整合ベンチマーク(PAB:Paris-Aligned Benchmark)」の2種類からなる。
いずれのベンチマークにおいても、社会に悪影響をもたらす企業は除外対象となる。具体的には、タバコの栽培・生産に関与している企業、問題性のある兵器の製造・販売に関与している企業、国連グローバル・コンパクトやOECD多国籍企業行動指針等の国際規範に違反する企業が該当する。
PABはCTBよりも野心的で、ベンチマークの構成銘柄から、石炭(収入1%以上)・石油(収入10%以上)・ガス(収入50%以上)の開発・加工企業や、二酸化炭素排出量原単位が100g CO2 e/kWhを超える電力企業(収入50%以上)を除外する。
委任法令では、EU公式の気候ベンチマークの導入に加えて、EU域内で提供されるインデックス全てに適用する情報開示基準も定めている。
インデックスの運営機関に対し、金融商品のESG評価をどのように行っているか等について情報開示を求める規定は、「独占状態」を招きかねない懸念から批判の的となっている。開示が義務づけられた場合、さらなる報告負担に耐えられるのはESGデータ会社を傘下に持つ大手のESGベンチマーク運営機関に限られるからだ。
一般的に、気候ベンチマークの開発と基準の情報開示を同時に行えば、欧州委員会が気候ベンチマークの基準策定に向けた提言を行うよう指名したアドバイザーグループ内での利益相反が露呈しかねない。EUが資金拠出しているシンクタンクのTwo Degrees Investing Initiativeは、提案された基準はワーキンググループ内の一部メンバーの「経済的利益と100%整合するようにみえる」というパブリックコメントを寄せている。
今回の改訂は欧州連合官報に掲載された20日後に発効される予定だが、欧州の業界団体である欧州金融市場協会(AFME)は発効までの期間が短すぎるとして批判している。
気候ベンチマークの要件をめぐる議論が始まって以来、気候ベンチマークとの整合性を謳った金融商品が既に数多く開発され、Qontigo、MSCI、Solactive、S&P、Amundiが実際に商品を市場に投入している。
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
<金融用語>
PRIとは
PRI(Principles for Responsible Investment: 責任投資原則)は、2006年発足当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が、世界の金融業界に向けて提唱したイニシアチブ。機関投資家が、投資の意思決定プロセスや株主行動において、ESG課題(環境、社会、企業統治)を考慮することを中心とした6原則とその前文から成るもので、2006年に国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が策定した。世界のアセットオーナー(Asset Owners)、運用機関(Investment Managers)、およびサービスプロバイダー(Professional Service Providers)にこの原則に対する署名を呼びかけ、2017年6月30日現在、アセットオーナー349、運用機関1,180、サービスプロバイダー224、総計1,753の機関(うち、日本は59機関)が参加している。
署名機関は専用のウェブサイトで様々な研究やキャンペーン、協働エンゲージメントなどの情報を利用することができ、より効果的、効率的な投資判断や行動ができる。署名機関には新規署名より1年経過後からレポーティングの義務が発生し、レポートはアセスメントによって評価を受ける。
日本の大きな動きとしては、安倍首相が2015年9月27日「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットの演説の中で、世界最大の年金積立金を運用する日本のGPIFが、このPRIに署名し持続可能な開発の実現に貢献することを表明した。この前後から日本でもアセットオーナーの署名が増加し、国内の責任投資推進のきっかけの一つとなった。
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