8月26日の外国為替市場では「低リスク通貨」とされる円が売られた。新型コロナウイルスや米中対立への過度な警戒感が和らぎ、運用リスクをとる雰囲気が広がった。一方、そんな楽観ムードに水を差すように、米株式相場に対しては慎重な見方が増えつつある。「割高」との懸念も高まり始めた米国株の調整は円相場の上昇要因でもあり、注意が必要だ。
■1ドル=106円台まで下落
この日の東京外為市場では、主要通貨に対し円が売られた。新型コロナの治療法確立への期待感が高まったほか、貿易交渉を巡る米中対立の激化への警戒感も薄れ、一時は1ドル=106円台半ばまで下落した。
27日には米ワイオミング州で「ジャクソンホール会議」が開かれ、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が講演する。市場では、追加的な金融緩和策の手段に触れない形で「ハト派」を演出するとの見方が多い。そうなれば「リスクオン」の地合いはしばらく続きそうで、円も売られやすい展開になりそうだ。
■米株の割高感
ただ、ここにきて懸念材料も出始めた。一向におさまる気配がない、米国株のバリュエーション(投資尺度)の切り上がりだ。米運用会社グランサム・マヨ・バン・オッタールーの資産配分チームはリポートで「圧倒的な不確実性の中、これほど高く評価されているのを見たことがない。鼻血が出るほど割高だ」と指摘した。あわせて発表した向こう7年の見通しでは、米大型株のリターンが主要資産クラスで最も低くなるとの見方を示した。
リポートの執筆者であるジェームズ・モンティエ氏が根拠の一つとして示したのが、「CAPEレシオ」。経済学者のロバート・シラー氏が考案した、消費者物価指数(CPI)などを加味した景気循環調整後のPER(株価収益率)だ。S&P500種株価指数ベースで、25日時点では31倍ほどと、月次データとしてさかのぼれる1881年以降では米ITバブルのさなかだった2000年前後や18年前半に次ぐ高水準にある。
米国の国内総生産(GDP)の多くを占める個人消費は先行きに暗雲が垂れ込める。米コンファレンス・ボードが25日発表した8月の米消費者信頼感指数は84.8と2カ月連続で低下し、2014年5月以来の低水準に沈んだ。この指数は過去20年にわたりS&P500の動きと足並みをそろえてきたが、ここにきて連動性が薄れ、真逆を向いている。過去の経験から言えば、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の裏付けを欠いた株高となる。
■いずれ限界がくる
こうした状況を見越してか、S&P500の最高値更新が続くウラで、主要株価指数に連動する上場投資信託(ETF)からは機関投資家を中心に資金の流出が続いている。QUICK・ファクトセットによると「SPDR S&P500 ETF トラスト」は25日までの3日間で40億ドル強の流出超となった。ハイテク株に投資する「インベスコ QQQ トラスト」も今週は流出超が続く。
いまは世界的な金融緩和策の拡大などで、過去に例がないほどお金の価値が下がっている。それだけに「史上最大の割高水準まで米国株が買われても不思議でない」(オーストラリア・ニュージーランド銀行の町田広之氏)との見方は多い。ただ、ファンダメンタルズの裏付けがない株高はいずれ限界がくる。
足元では円安基調が続いているが、いつ米国株が崩れて「リスクオフ」に戻ったとしても不思議ではない。安易な円売りでやけどを負わないよう、市場の動きを慎重に観察すべき局面だろう。〔日経QUICKニュース(NQN)松下隆介〕
<金融用語>
バリュエーションとは
企業の利益・資産などの企業価値評価のこと。 本来の企業価値と現在の株価を比較して、株価が相対的に割安か割高かを判断する具体的な指標としては、株価純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)、配当利回りなどがある。