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温室効果ガス排出削減で日本企業の価値が上がる?―GPIFのESG活動報告より

世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は8月19日に「2019年度ESG活動報告」の中で、採用したESG株価指数がベンチマークをアウトパフォームしたことを発表した。国内株式に占めるESG投資の割合が昨年度から今年度にかけてほぼ倍増し好調な運用を続けているといえるが、成果はESG以外の要因からも影響を受けていることが示される課題も浮き彫りとなった。 今後は企業のESG情報の開示がさらに進み、ESG評価が幅広い銘柄に広がりをみせることが期待される。

■長期的な検証が必要

GPIFが選定したESG指数の2017年4月から20年3月までの3年間及び19年4月から20年3月までの1年間のパフォーマンスについて市場平均を上回った。ただし、GPIFではESG投資が長期にわたるほど、リスク調整後のリターンを改善する効果が期待できるとみており、3年という期間に縛られず長期的な検証が必要との認識を示した。

とくに19年3月以降の4つの指数の上昇要因については、高い利益率や成長率が関係していた。4つの指数を等ウェイトで合成した指数およびMSCIグロース・バリュー・クオリティのスタイル指数とTOPIXの相対株価の推移をみると、この期間にクオリティやグロース指数のTOPIX相対株価が1を上回って上昇した一方で、バリュー指数は1を下回って下落した。ESG指数は0.5未満であるが緩やかに上昇しており、高い利益率・成長率の銘柄が相対的に上昇した影響を受けていることが示された。

ESG指数はスタイル指数ほどに高クオリティ、高グロース銘柄は多くないにしても、一定程度のウェイトを占めており、ESG指数のパフォーマンスはスタイルや大型株のバイアスなど、ESG以外の要因にも左右されてしまうことがあるという。特定のスタイル要因によるパフォーマンスへの影響を小さくするためにも、 今後企業のESG対応や情報開示がさらに進み、ESG評価が小型株も含めた幅広い銘柄に広がることが期待される。

※ESG指数とTOPIX

■気候変動リスク

今年度の分析の中で大きな発見となったのは、世界が2℃目標などに代表される温室効果ガス排出削減に取り組んだ場合、日本企業の企業価値が増大するということだ。MSCIが提供する気候変動による保有資産のリスク量指標の「気候バリューアットリスク(CVaR:Climate Value-at-RISK)に沿えば、日本株式の現在価値はプラス12.3%増加する結果だった。外国株と比べ異常気象などによって工場やサプライチェーンが損なわれる「物理的リスク」が大きいものの、環境技術によるプラス効果が全体を押し上げた。CVaRは、気候変動によって企業価値が将来的にどの程度変化するかを示すことができ、「気候変動が企業価値に与える金額的ショック」としてとらえることが可能だ。気候温暖化が経営に及ぼす影響について情報を求める「気候関連財務情報開示タスクホース(TCFD)」で言うところの、社会の低炭素化に伴い広範な資産が再評価を迫られる「移行リスク」はCVaRでは「政策リスク」と「技術的機会」に該当し、「物理的リスク」も含めた3つの尺度で企業価値に与えるへの影響が分析される。

■TCFD提言に基づいた情報開示

GPIFは昨年度より自身についてもTCFDの提言に沿った情報開示をしており、今年は移行・物理リスクおよび機会を統合して評価をした。気候変動に伴うリスクについては、全ての資産クラス・銘柄に同時に生じるものであり、分散投資を行うことで完全に消すことができないうえ、また、少なくとも長期的には顕在化する可能性が極めて高いリスクと考えられる。こうしたことから、GPIFでは、この気候変動リスクに関して、アセットオーナーが主体的に取り組むべき課題であると捉え、環境株式指数に基づくパッシブ運用やグリーンボンドへの投資、TCFDなどへの賛同をはじめとした投資や活動を行っている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券では今後、「TCFD提言に基づいた気候関連情報開示とその分析に関する新しい手法は、事業会社による情報開示に影響を与える可能性がある」との見解を示した。

■日本企業のESG評価

以前から指摘されていたMSCIとFTSEのESGスコアの乖離については、外国企業については両社のESGスコアの相関関係が17年3月末から20年3月末に継続して高まった一方、日本企業についてはESGスコアの相関関係が横ばいの状態が続いていた。特にSスコアやGスコアについては相関関係のない状態が継続していることが確認された。みずほ証券は「評価が難しいSの相関関係が低いのは納得でも、評価が相対的に容易なGの評価のばらつきが依然大きいことには意外感があった」と指摘。GPIFは「日本企業に対するESG評価の収れんは外国企業に比べて足踏み状態にあるが、GPIFとESG評価会社、ESG評価会社と企業の対話が年々広がりを見せており、今後の改善に期待したい」と述べた。ESG評価会社とコンタクトを取った企業の割合は日本企業が主要国で最も高く、ESG評価会社との対話に積極的な企業ほど、ESG評価が改善している。ESG評価会社との対話がESG情報開示において、ポジティブな効果をもたらしている可能性もある。QUICK Market Eyes  川口究)

<金融用語>

ESG投資とは

SRI(社会的責任投資)とCSR(企業の社会的責任)を発展的に統合した考え方。頭文字はE(環境、Environment)、S(社会、Social)、G(企業統治・ガバナンス、Governance)をそれぞれ意味する。世界が貧富の格差問題、ボーダーレス化する地球環境問題や企業経営のグローバル化に伴う様々な課題に直面する中で、企業への投資は、短期的ではなく長期的な収益向上の観点とともに、持続可能となるような国際社会づくりに貢献するESGの視点を重視して行うのが望ましいとの見解を国連が提唱した。その結果、ESGの視点で投資を行う金融機関が欧米を中心に広がっている。

著者名

QUICK Market Eyes 川口 究


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