安倍晋三首相の後任となる次期自民党総裁の選挙に、菅義偉官房長官が出馬する意向を固めたと伝わった。菅氏は首相をそばで支え、経済政策も熟知。総務相経験者として官邸に入ってからも携帯電話料金の値下げに尽力してきたことでも知られる。菅氏が後任となれば、ますます通信料金値下げに拍車がかかるとの見方もあり、収益悪化につながる携帯キャリア株の重荷になるとの思惑がちらつく。
■携帯料金の値下げに尽力
「大幅な引き下げの余地がある」「政府の役割は事業者間で競争がしっかり働く仕組みを整備することだ」。菅官房長官が携帯料金を巡り、記者会見の場で過去、繰り返し述べてきた発言のように思われるかもしれない。だがこれは、安倍首相の辞任意向が伝わる数時間前の8月28日午前の記者会見での発言だ。菅官房長官にとって、相変わらずホットな問題であることを示している。
楽天(4755)が第4のキャリアとして携帯電話事業に参入したのも、競争を促して料金値下げに拍車を掛けるための官房長官率いる官邸主導だったと言われている。楽天の参入発表が17年12月。その後の18年8月、珍しく都内を出た官房長官が札幌市の講演で「今よりも4割程度下げる余地がある」と発言した。
呼応するようにNTTドコモ(9437)とKDDI(9433)が19年4月、6月から最大4割下げると発表。6月には総務省の有識者会議が2年契約の途中解約にかかる違約金を1000円以下とするルールを決めた。ソフトバンク(9434)は携帯端末の負担軽減策に踏み出した。楽天参入と官房長官発言を機に、雪崩を打つように利用者の負担軽減策が打たれていった。
大手キャリア傘下の格安スマホの通信環境の優遇や中古スマホの流通、家庭用通信とのセット販売での値引きなど、総務省が多くの課題にメスを入れられてきたのも菅官房長官の肝煎り政策だということが陰に陽に影響したとみられる。
■さらなる値下げの標的に
総務省の情報通信白書の20年版によると、家計の消費支出に占める移動電話通信料の割合は19年時点で3.45%と、10年の2.64%と比べて増えている。新型コロナウイルスの感染の影響が収入減として響いている家計も少なくなく、ますます携帯料金は値下げ余地があるとして標的にされかねない情勢だ。
自民党総裁選は9月中旬に実施される見通し。情勢はまだ不透明だが、仮に菅氏が選出されれば再び携帯料金の値下げ圧力が高まる可能性がある。現政権の継承が重視されるなら、携帯料金を巡る課題も引き継がれて当然の施策に違いない。31日の日経平均株価は4営業日ぶりに反発したが、市場の不安を映すようにNTTドコモ、KDDI 、ソフトバンクの通信大手3社の株は下落している。〔日経QUICKニュース(NQN)秋山文人〕
<金融用語>
格安スマホ(格安スマートフォン)とは
docomoやau、ソフトバンクなどの大手携帯キャリアからインターネット・通話の回線を借りてデータ通信サービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)が扱う低価格のSIMカード(格安SIM)に、SIMフリーのスマートフォン本体(端末)をセットにしたスマートフォン(スマホ)のこと。MVNOは、自社の通信回線を持たないため、大手携帯キャリアよりサービスを安く提供できる。